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「スピード感」と「情熱」を持って事業体制の強化を

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中堅のお客さまを回っていて耳にするのが「東京エレクトロンから仕事をやってほしいと言われた。しかも発注量が半端ではなく、新工場でも建てなければ対応できない」という話だ。耳にする地域も中国から中部、北関東まで広がっており、サプライヤー探しに躍起になっている様子がうかがえる。

東京エレクトロンの2022年3月期決算は連結売上高が2兆38億円、営業利益率が29.9%、ROE(自己資本に対する当期純利益の割合)は37.2%だった。2019年5月に発表した中期経営計画では、2024年3月期までに売上高2兆円、営業利益率30%以上、ROEは30%以上を目指す、としていたがそれを2年前倒しで達成した。半導体需要が旺盛なことから半導体製造装置に対する需要も好調なことが大きな要因だ。

同社が得意とするのは半導体製造の前工程となるウエハーの表面にフォトレジストといわれる感光剤を均一に塗布し、縮小レンズをとおしてフォトマスクに光を照射することで回路パターンを焼きつけるパターン転写の際に使われるコータとデベロッパの製造である。「コータ」はフォトレジストを塗布する装置、「デベロッパ」は露光した部分のフォトレジストを溶かす装置で世界的に見ても同社の市場占有率は90%弱を占めている。また、ウエハー上に形成されたチップに異常がないか電気的検査を行うための装置、「ウエハープローバ」でも東京エレクトロンは東京精密とシェアを二分している。

さらに、同社はオランダの露光装置(ステッパー)のトップ企業であるASMLの「高NAラボ」と連携して2023年より稼働予定の次世代高NA EUV露光装置にインラインする塗布現像装置の開発を進めている。そのため、九州の研究所に実際の半導体製造ラインを設置し、ASMLの露光装置も導入して開発を行っていると言われている。

こうした開発商品などを含めて、同社は今年6月に発表した新たな中期経営計画で、2026年度に連結売上高を3兆円以上に拡大すると発表した。こうした売上増を想定して板金サプライヤー、特にワンストップで大口の案件にも対応できる中堅クラスの板金加工企業にオファーを行っているようだ。社内の調達部門では賄いきれないと考え、一部を調達代行のコンサル会社に依頼しており、その積極的な姿勢が業界で話題になっている。

同社の経営には多くの学びがある。成長を加速するため2022年度から5年間で1兆円以上の研究開発投資を実施するなど、同社が研究開発体制を強化し続けていることが今日の好業績をもたらしている。

これからも気候変動に対応するEV化の加速、再生可能エルギーへの代替えをはじめとした課題の解決に半導体はなくてはならない必需品であり、コンパクト化や、さらなる集積度の向上が求められていくのは確実だ。それらを実現させるためには、半導体製造装置のさらなる高度化が必要であり、装置メーカーの役割がますます重要になってきている。

同社は過去3年間で4,000億円超の研究開発投資を実行し、より精緻な半導体を製造可能な製造装置の実現を可能にさせてきた。それだけに生産技術力も優れており、サプライヤー間では「東京エレクトロンから出図される製品図面はしっかりとしていて、板金を理解している設計者によって描かれている」と評価が高い。そうした不断の努力があるからこそ、部材調達にも徹底した取り組みが行えるということも言える。

不確実な時代だからこそ、これからはビジネスチャンスを確実に取り込めるよう「スピード感」と「情熱」を持って事業体制の強化をするとともに研究開発体制の徹底した強化に取り組む必要がある。東京エレクトロンの経営が如実に物語っている。

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