ジェイテクト子会社が展開する受発注マッチングサービス
「調達のハイブリッド化」に対応し、「新たな産業クラスター」を再構築 ― 製造業の負のスパイラルを食い止める
株式会社 ファクトリーエージェント
ジェイテクト子会社の㈱ファクトリーエージェントは2020年7月、製造業マッチングサービス「ファクトリーエージェント」の本格展開を開始。併せて、板金加工企業の㈱浜野製作所(東京都墨田区)との業務提携を発表した。
「ファクトリーエージェント」は2019年3月にテストサービス(β版)を開始した。「発注者」がWebサイト上で図面データをアップロードすると、独自のプログラムと“目利き力”によって最適な「受注工場」とのマッチングを実現する。
ファクトリーエージェントの最大の特徴は自動車部品・軸受け・工作機械を手がける大手製造業・ジェイテクトのグループ企業であり、確固たる技術基盤を備えていること。言語化・数値化が困難なものづくりのノウハウを尊重し、「受注工場」の立場に当たる浜野製作所をパートナーとして迎え入れた。「ITは最大限活用するが、あくまで主役は“人”」(上出武史社長)とし、技術的な提案にも力を注ぐ。
今回の本格展開にあたり、ジェイテクトの佐藤和弘社長は「企業は社会貢献のための器」であり「製造業の一義的な社会貢献は“良品廉価”。ファクトリーエージェントは“良縁廉価”がビジネスモデルになる」と語った。
10月には製造業向け資金繰り支援サービスとして、ファクトリーエージェント内でマッチングした案件の「スピード入金」サービスと、MF KESSAI㈱(マネーフォワードグループ)との業務提携により、従来の一般取引も対象となる売掛債権早期資金化サービス「資金調達あんしんサポート」の提供を開始した。(インタビュー時は未発表)
ファクトリーエージェントの上出武史社長に話を聞いた。
ジェイテクトが全面的にバックアップ
― 製造業マッチングサービス「ファクトリーエージェント」を設立するまでの背景を教えてください。
上出武史社長(以下、姓のみ) 私がジェイテクトに入社し、新規事業として「ファクトリーエージェント」のビジネスを提案してから、数カ月間という極めて短い期間でテストサービスを開始しました。従業員規模5万人弱(連結)の企業としては、かつてないようなスピードで事業化が進められました。
これはひとえにジェイテクトの経営トップが、このビジネスモデルを総合的に見たうえで「応援すべき価値ある事業」と判断し、応援してくれたためです。
そこには「このままでは日本のものづくりはダメになる」という共通の危機感がありました。国内では少子高齢化、海外ではアジア諸国の技術力の向上により、日本の製品は競争力を失いつつあります。その結果としてサプライヤーへの発注が減り、サプライヤーは事業承継の問題とも相まって、設備や人材への投資ができなくなり、技術が失われ、最悪の場合は廃業に至ります。サプライヤーの技術力に支えられているメーカーは、部品の供給力が落ちることで競争力を失い、製品の販売がさらに減少する ― そういう負のスパイラルに陥りつつあります(図1)。
ものづくりの実力があるのに、主力得意先からの仕事が減ったり、営業力が弱かったりといった理由だけで事業の継続を諦めざるを得ないような状況は放置できない―当社が経営理念として掲げている「壊れゆくサプライチェーンを食い止め、新たな産業クラスターを再構築し、日本のモノづくりに活力と笑顔を取り戻す」は、ジェイテクトの安形哲夫前社長、佐藤和弘社長にも共通する思いであり、両者とも「やるべき価値がある事業」と見なしてバックアップしてくれています。
「新たな産業クラスター」のかたち
― 経営理念の中の「新たな産業クラスター」とは、どのようなものでしょうか。
上出 日本のサプライチェーンはピラミッド型の下請け構造で、中小サプライヤーが何社もつらなり、部品を供給しています。サプライチェーンの頂点にあるメーカーが、どれだけ安くて良いプロダクトを生み出せるかは、サプライチェーンを構成するサプライヤーにかかっています。
しかし、各メーカーのサプライチェーンはクローズドで、相互にはつながっていません。そのため「発注者」であるメーカーは、基本的には自社のサプライチェーンの中からしか部品を調達できませんでした。
それに対して当社は、独自のネットワークとプログラムで、サプライチェーンや業種の垣根を越えた新しい調達ルートを接続します。たとえば半導体業界のメーカーと自動車業界のサプライヤー、建築業界のメーカーと設備業界のサプライヤーをマッチングし、異なるサプライチェーン・業種に属する企業同士で受発注を成立させる。これが、私たちが考える「新たな産業クラスター」のかたちです。
マッチングの流れ ― 代金回収の代行も
― マッチングの流れを教えてください。
上出 まず、「発注者」が図面をアップロードし、必要な情報(数量・希望納期など)を入力します。当社はプログラムやアルゴリズムでフィルタリングしたうえで、その製品をつくる技術を持った「受注工場」数社に連絡します。「受注工場」は仕事の内容を精査して見積りをアップロードし、「発注者」が「受注工場」を選んで注文すると、ものづくりがスタートします。
当社は、マッチングが成立して調達が完了した段階で、「受注工場」から成果報酬をいただきます。入会金や月会費などは不要です。また、当社が代金回収を代行するとともに保証も付け、「ファクトリーエージェント」を通じて成約した案件については必ず翌月に現金で支払います(図2)。
― 発注企業がアップロードする図面データは、2次元の画像データ(PDF、JPGなど)が主で、DXFやSTEP、IGESなどは補足データと位置づけていますね。
上出 今のところは、紙図面の画像データや2次元の図面データを主に取り扱っています。3次元モデルはデジタル処理をするうえで扱いやすいのですが、世の中ではまだまだ2次元の図面が支配的。それを当社スタッフや浜野製作所様のメンバーなどが精査して、最適と思われる「受注工場」に割り振っていきます。
つづきは本誌2020年11月号でご購読下さい。