ミスミが推進する 「meviy全方位構想」
新サービスを相次ぎ発表 ― 新たな進化の局面へ
株式会社 ミスミグループ本社 常務執行役員 ID企業体社長 吉田 光伸 氏
機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy」が、新たな進化の局面をむかえている。
FAメカニカル部品・金型部品の製造・販売などを手がける㈱ミスミグループ本社(以下、ミスミ)は、2019年から、3次元CADデータをアップロードするだけで即時見積りと最短1日出荷を実現する機械部品調達プラットフォーム「meviy」を展開。製造業の調達領域に革新をもたらした。
2023年以降は、「meviy」がカバーする調達領域だけでなく、エンジニアリングチェーンのあらゆる非効率を解消し、時間創出につなげる「meviy全方位構想」を推進。中核サービスである「meviy」に加え、2023年6月からは2次元図面データに対応するAI図面調達サービス「meviy 2D」、2024年8月からは図面データ検索AI「meviy Finder」(無償)、同年9月からは日本最大級の製造業マーケットプレイス「meviyマーケットプレイス」の提供を開始した。
「ものづくりの社会インフラ」とも呼ばれるミスミは、かねてより「時間戦略」を掲げ、ものづくり産業へ向けて「時間価値」を提供する独自サービスを生み出してきた。常務執行役員 ID※企業体社長・吉田光伸氏とmeviy Labジェネラルマネージャー・芝田篤史氏に話を聞いた。
ミッションは「ものづくりに創造と笑顔を」
― まずは「meviy」の開発経緯と位置づけについて、おさらいをさせてください。
吉田光伸氏(以下、姓のみ) 日本の製造業は本質的な課題として「人手不足」と「時間不足」の2つを抱えています。労働力(生産年齢人口)はピークの1995年から2060年にかけて半減すると予測され、時間外労働を規制する働き方改革によって一人あたりの就業時間も最適化されている。「総労働時間」が減少へ向かう中では、「量」から「質」へのパラダイムシフト(概念転換)が生存要件であり、DXによる生産性向上が不可欠です。
ミスミは1977年以降、カタログビジネスによって「規格品」の調達プロセスを改革してきました。しかし、「規格品」だけでお客さまのBOM(部品表)のすべてを満たすことはできません。そこで2019年に発表したのが、AI技術によって「図面品」の調達プロセスを改革する「meviy」です。
当社が一貫して追求してきた提供価値は「時間」であり、「meviy」が掲げているミッションは「ものづくりに創造と笑顔を」です。「meviy」が生み出した「時間」を使って、人間にしかできない創造的な活動に取り組んでいただき、よりよい製品が生み出されることでエンドユーザーに笑顔を届けたいと真剣に考えています。
「試作」でも「量産」でも利用が進む
― 「meviy」のリリース後、5年が経過しました。
吉田 当初は開発試作の領域で利用されることが多かったのですが、今は量産でも便利にお使いいただけています。
納期・料金のバリエーションが増えたことで、利用シーンに合わせて、納期重視の試作であれば「短納期サービス」、コスト重視の量産であれば「納期割引サービス」を選択できます。納期割引と数量割引を組み合わせることで、料金は最大73%オフになります。
好評なのは、AIが製作可否を即座に判断し、「不可」であればその理由と改善方法を示してくれる機能です。本来なら先輩の設計者が教えるような内容ですが、「meviy」を使い続けることで自然とノウハウを習得できます。自動見積りですから、コストの比較も簡単にできます。設計を少しずつ変更しながらコストを検証することで、最適設計のトレーニングもできます。
お客さまからは「若手設計者の教育に役立つ」というお声をよくいただきます。当社としては「meviy」を技術継承のインフラとしても役立てていただき、持続的な産業発展に貢献したいと考えています。
― 「meviy」は機械部品のサプライチェーンに大きなインパクトをもたらしました。「加工企業」との関係については、どのようにお考えですか。
吉田 「meviy」は複雑な加工や高付加価値な加工をターゲットにしていないため、「加工企業」とはある意味で協業関係にあると思っています。
「meviy」のユーザーの中には「加工企業」もたくさんいらっしゃいます。単純形状で付加価値を生みにくい製品は「meviy」に外注し、付加価値の高い仕事は社内で加工することで、自社の加工設備の稼働率や出来高を高め、生産キャパシティーを充実させる。あるいは、保有していない工程を「meviy」に外注することでユニットなどにワンストップで対応するといったケースも見られます。
「meviy全方位構想」を推進 ― 新サービスを相次ぎ発表
― 2023年以降は新サービスを相次いで発表しました。
吉田 「meviy全方位構想」のもと、「meviy」をコアに、「時間価値」を提供する領域を拡大していこうとしています。
「meviy 2D」は、「meviy」では対応していない2D図面データで機械部品を調達できる仕組みです。2Dの図面データ(PDF・DXF・DWG)をアップロードすると、AIが図面情報を自動で解析し、最適な生産工場を自動選定して、最短1日で見積り(価格・納期)を回答します。
図面データ検索AIの「meviy Finder」は無償で提供しています。図面データをアップロードすると、図面に記載されている寸法・記号・テキストなどの情報を図面認識AIが自動的に解析・蓄積します。図面情報からキーワード検索ができるようになり、類似品検索も可能です。図面データの対応形式は今のところPDFのみですが、今後は順次拡大していく予定です。
― 「meviy Finder」の無償提供は衝撃的でした。
芝田篤史氏(以下、姓のみ) 2D図面のAI解析や類似図面検索の機能は「meviy 2D」を開発する過程で磨き上げてきました。これまでもミスミはさまざまな業務プロセス効率化のツールを無償で提供しており、「meviy Finder」も同様に無償提供とさせていただきましたが、類似図面をピックアップする性能は十分に実用レベルです。
図面の類似性は、普遍的なものではありません。形状だけでなく、サイズや工法などのパラメーターも重要なファクターで、用途や文脈に合わせて判定基準をチューニングする必要があります。AI類似図面検索システムの多くは形状が似ているだけで類似とみなしますが、加工品を調達手配する文脈でチューニングしてきた「meviy Finder」は外形寸法も含めて類似かどうか判定することができます。
― 「meviy Finder」を他社の生産管理システムや見積り管理システムと連携させる可能性もあるのでしょうか。
芝田 すでに何件かお話をいただいています。当社としては大変ありがたいお話で、今後、「meviy Finder」を外部と連携させる可能性は十分にあると考えています。
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