“時代を拓く先見力”
「次代」に愛される女性
富士電子工業 株式会社 代表取締役社長 渡邊 弘子 氏 (「ものづくりなでしこ」代表幹事)
渡邊弘子氏
梅雨も終わろうとしている6月、新装したばかりの富士電子工業㈱の新本社のエントランスに取材のために足を踏み入れ、驚いた。
受付カウンターの腰部分は和紙が貼られた障子の風情を持ち、その横には5~6層にも重なった和紙で、同社の主力製品のひとつであるギアが立体的に表現され、壁一面を飾っていた。聞けば政府の「日独中堅・中小企業セミナー」の場で出会った和紙作家・堀木エリ子氏によるインテリアアートで、この作品の和紙には幸せや希望という意味を持つ虹色の糸が漉き込まれており、「ものづくりの背景を支えて人々の幸せを生み出す企業」であることを象徴したデザインとなっているとのことだった。和紙の持つ風合いと強靭さ、なんでも吸い込む包容力の大きさが、渡邊弘子社長とも相通じるように感じられた。
記者が初めて渡邊社長をお見かけしたのは2年前、「ものづくりなでしこ」の設立パーティーの会場で代表幹事として挨拶に立ったお姿で、優雅に和服を召して、てきぱきと会の進行を取り仕切っておられたのが印象的だった。
富士電子工業は、大阪の本社・工場のほかに加工工場、東京と名古屋に営業所があり、社員数は125名。そのほかに、中国広東省佛山にも工場を持っており、総経理は日本人が担当しているが、そのほかの社員約20名はすべて中国人で、中国国内向けの仕事を回している。
得意先は、トヨタやホンダなどの大手自動車メーカー各社をはじめとして、DMG森精機などの工作機械メーカー各社、そのほか部品メーカーなど数百社におよぶ。
輸出先は、アジア各国をはじめ、中南米を含む米州、欧州の各国など20カ国以上にわたっている。そのため、リクルートページには「英語・中国語・韓国語・スペイン語などの語学に親しみ、日本のものづくりを海外に広めたい人」と書かれている。
廊下を歩けば、金髪の青年が「こんにちは」と挨拶をしてくれ、社内には「祈祷室」と書かれたイスラム教徒のための祈りの部屋があった。新装社屋の一室が、ムスリム(回教徒)のお客さまのために設えられていることに驚いていると、渡邊社長は「お祈り用に専用のマットがあるらしいので今、調達中です」とのことだった。なんとあらゆる人種への理解と包容力が大きいのか ― と渡邊社長の懐の深さを感じた。
そんな懐の深さを感じさせる富士電子工業の社長兼「ものづくりなでしこ」代表幹事の渡邊社長にお話を伺った。
男性中心の「ものづくり」に一石を投じる
― 渡邊社長が代表幹事を務めていらっしゃる「ものづくりなでしこ」について教えてください。
渡邊弘子社長(以下、姓のみ) 「ものづくりなでしこ」は、当時、経済産業省製造産業局素形材産業室室長補佐をされていた伊奈友子氏(現職は商務・サービスグループ 消費・流通政策課 消費経済企画室長兼、物流企画室長)が中心となり、製造業の女性経営者の横のネットワークをつくるため、6年前に発足しました。2016年5月に正式な団体を設立して活動を開始し、工場見学会や懇談会を通じ、情報交換・意見交換を積極的に行っています。
鍛造・プレス・メッキ・熱処理など、モノづくり関連企業の女性経営者が中核になって、従来の男性中心型の素形材産業に新風を巻き起こそうという狙いです。
日本の製造業の発展に寄与するとともに、次代を担う女性経営者の育成を支援することを目的として、家庭と仕事を両立する手助けとなるようなセミナーや勉強会を開催し、女性経営者としての視点を通じた政策提言も試みています。
会員は現社長の「なでしこ会員」と次期経営者の「BOURGEON(ブルジョン)会員」(つぼみの意)、男性支援者の方々を加えた「サポーター会員」など総勢130名にもおよび、男性中心になりがちな従来の「ものづくり」に一石を投じる狙いもあります。
新本社の玄関エントランス。同社の主力製品のひとつであるギアを和紙で表現した作品が壁一面(写真右側の壁)を飾っている
クランクシャフト焼入装置。半開放コイルを回転するワークに追従させながら焼入を行い、歪みを最小限にする
同社の高周波焼入装置で焼入れした各種機械部品のカットサンプル
会社情報
- 会社名
- 富士電子工業 株式会社
- 代表取締役社長
- 渡邊 弘子
- 住所
- 大阪府八尾市老原6-71
- 電話
- 072-991-1361
- 設立
- 1960年
- 従業員数
- 125名
- 事業内容
- 高・中周波熱処理受託加工/高周波誘導加熱装置およびその部品の製造販売/トランジスタ・インバータおよびその部品の製造販売/電子応用機器の製造販売/誘導加熱付帯各種自動機器の製造販売
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