Interview

組織の力が会社の“チカラ”―組織開発によるブランド化

震災・原発事故からの復興に貢献する事業を模索

シオヤユニテック 株式会社 代表取締役 塩谷 雅彦 氏

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画像:組織の力が会社の“チカラ”―組織開発によるブランド化OJTの様子。溶接の歪みや加工品質を先輩社員(左)がチェックする

聖徳太子は「和を以て貴しとなす」という言葉を残している。人々がお互いに仲良く、調和していくことが最も大事なことであるという教えだ。企業もいろいろな考えを持った人の集団。社長をリーダーに会社の志(理念)を共有し、“和を以て”その任を務めることが求められる。

しかし、理念を共有した組織をつくり上げるには大変な努力が必要で、企業のリーダーである経営者は組織づくりに心血を注ぐ。その反面、経営者自身に自惚れや驕りが生まれたり、志が揺らいだりした場合、社員に不満や不安を与えてしまう。その結果、会社を去る者もあらわれ、それが伝播すると組織の根幹を揺るがし、組織崩壊の事態に陥ることもある。

30人以上の組織になると、経営者ひとりで全体を見渡すのは難しいため、“右腕と左腕”の存在が必要になる。中小企業の場合は親族がその役目を担う場合が多い。ところが頼みにしていた親族が急逝すると、それがきっかけで会社組織にほころびが生まれ、組織崩壊につながることもある。

そんなとき、経営者は現状に立ち向かい、組織崩壊を食い止め、新たな目標を掲げ、組織を再生していかなければならない。そのためには「自分が変わり、強い組織をつくらなければ会社は変わらない」と、“組織開発”(Organization Development:OD)を実践している経営者がいる。「道なかばだがトンネルの向こうに出口が見え始めた」と語る、シオヤユニテック㈱の塩谷雅彦社長だ。

「組織崩壊の危機」に直面

画像:組織の力が会社の“チカラ”―組織開発によるブランド化塩谷雅彦氏

―「組織崩壊の危機」という深刻な状況を経験されました。御社の沿革とともに経緯をお聞かせください。

塩谷雅彦社長(以下、姓のみ) 私の実家は代々農業を営んでいました。製造業への転向は、父の塩谷利彦元会長が、1984年に溶接専門の工場を創業したことがきっかけです。1987年に㈲塩谷製作所を設立、2004年にはシオヤユニテック㈱に改組し、それと同時に私が2代目社長に就任しました。その年から不定期ではあるものの新卒採用や中途採用を積極的に行い、最新設備も毎年のように導入、右肩上がりの成長を遂げていました。2008年のリーマンショックでは大打撃を受けたものの、全社員の理解を得てワークシェアリングを実施し、難局を乗り越えました。

2011年は、東日本大震災と津波による福島第一原発の事故の影響で福島県が甚大な被害を受けました。当社は幸いなことに会社そのものや仕事への影響は大きくなかったものの、他の産業へのダメージは大きく、「ここで踏ん張って福島を盛り上げていくのは俺たちだ!」という思いで、震災の被害や原発事故による風評被害から立ちあがるために尽力してきました。2013年には、会社の屋上を活用して太陽光発電所「お天道様のチカラ発電所」の稼働を開始するなど、積極的な経営も試みてきました。

その甲斐あってか、3年前の2014年8月の決算では創業以来最高の売上高と経常利益を記録しました。しかし、意気揚々としていたのもつかの間、決算の翌月から12月までの4カ月間に社員の1/4が会社を去りました。そのことによって、多くの得意先から不安の声があがり、仕事の先行きに暗雲が立ちこめてきました。当然、社内の雰囲気も落ちに落ち、「組織崩壊の危機」を迎え、お客さまからの信頼も期待も失ってしまう現実が目前に迫ってきました。残った社員も焦燥感が高まり、「社長はこの会社を本気で立て直そうとしているのか」と私に対する批判も厳しさを増しました。

  • 画像:組織の力が会社の“チカラ”―組織開発によるブランド化パンチ・レーザ複合マシンEML-3610NT+ASR-510M+TK
  • 画像:組織の力が会社の“チカラ”―組織開発によるブランド化リプル中間盤をセットしたベンディングマシンHD-1703LNTによる深曲げ加工

“組織開発”(OD)で会社再生を目指す

―社員の方たちの批判は、社長の姿勢に対するものだったのですか。

塩谷 正直、私に“驕り”が出ていたのだと思います。「こうするんだ」と決心したら、周りの意見に耳を傾けず、決定事項として社員みんなに押し付けていたように思います。会社にはいろいろな価値観を持った人たちが働いています。しかし、そうした価値観の多様性を私がうまく汲み取ることができず、「社員のみんなは当社の経営理念に基づき、その目標に向かって仕事をしている」と信じ込んでいました。これは私自身に謙虚さの欠如と慢心があったからです。そのことに気づかせてくれたのは、今も働いてくれている社員、特に幹部の人たちです。

まず、リーダーである私自身が真っ先に変わらなければならないと考え、幹部に協力を仰ぎ、組織開発コンサルタントを招いて「組織再生・開発」「シオヤユニテックブランド化計画」に着手しました。まず、私が策定した経営理念や行動規範、ビジョン、そして経営戦略などをいったん白紙に戻し、幹部と一緒に再構築しました。そして、企業の方向性を決める重要な内容については、トップダウンありきから総意(コンセンサス)により決定する取り決めもしました。さらに、自らにも社員にも課していた勉強会への参加も凍結。「忙しい最中、社長が外へ出かけている」「やらなくちゃいけない仕事があるのに勉強会への出席を優先させなければならないようではモノづくり企業としての使命は果たせない」という幹部の進言を受け入れました。ただし、専門的な資格取得や講習会への参加は推奨しています。

そのような取り組みを行っている中、2015年7月、私の将来の“腕”と期待していた実弟が急逝しました。脳腫瘍が原因でした。何でもっと早く気がついてやれなかったのかと悔やみました。でも、葬式を終えた翌週の定例会議の冒頭、幹部が「弟の剛さんがなくなったのは現実です。悲しもうが何をしようがこの現実を変えることはできない。今までどおり、残されたメンバーで力強く前進しましょう」と言ってくれました。涙が出るほどの嬉しさを感じると同時に、本気でODを実践してくれている幹部のみんなに対する感謝の気持ちでいっぱいになりました。それから1年半、まだ道なかばですが、残っている社員たちはみんなで構築した経営理念・ビジョンと向き合い、戦略をやり切ることを目標に、それぞれの仕事や役割を懸命にこなしてくれています。ODの手ごたえを感じています。この変化が新たな仕事につながっていけば、当社は再び立ち上がれます。まだ遠いながらも、トンネルの出口が小さく見えてきました。

  • 画像:組織の力が会社の“チカラ”―組織開発によるブランド化材料棚や搬送装置などの周辺装置の部品
  • 画像:組織の力が会社の“チカラ”―組織開発によるブランド化組立中の海外向け天然ガスパイプライン電源用筐体

会社概要

会社名
シオヤユニテック 株式会社
代表取締役
塩谷 雅彦
住所
福島県福島市松川町下川崎字新田61
電話
024-567-6367
設立
1987年
従業員
29名
主要業種
大型板金および精密製缶、大容量電源装置筐体などの組立
URL
http://www.sut-jp.com/

つづきは本誌2017年3月号でご購読下さい。

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