板金論壇

企業物価上昇、電子部品不足で調達の流れが変わる

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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電子部品の供給不足で生産調整

先日、大手メーカーの工場を見せていただく機会がありました。部品工場は週7日・24時間稼働の「8760工場」であることが強みでしたが、半導体・電子部品の調達が滞り、現在は週5日稼働と生産調整を行っていました。組立工場にはプロジェクションマッピングを応用した先進的な「屋台ブース」で150基以上設置されていましたが、稼働しているブースは1/3弱。部品調達の滞りは、製造業界に大きな影響を与えていることをあらためて認識しました。

企業物価の上昇でますます先行き不透明に

メーカー各社は、鋼材価格の高騰や電気料金の大幅な値上がりなどによる収益悪化を理由に、4月以降、製品価格の値上げを相次いで発表。値上げ幅も5~10%と大きくなっています。しかも、原材料価格や電気料金の上昇は止まらず、電気料金の基本契約料は前年比で2倍ちかくに値上がりしています。そのため、製品価格は夏明け以降の再値上げも視野に入ってきています。

日銀が発表した6月の企業物価指数(速報値)によると、国内企業物価指数(2020年平均=100)は113.8となり、3カ月連続で過去最高を更新しました。前年同月に比べて9.2%も上昇し、16カ月連続でプラスとなりました。ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響にともない、企業間で原材料費の上昇を価格に転嫁する動きが広がっていることがわかります。

コロナ禍による世界的なサプライチェーンの混乱 ― とりわけ中国・上海が「ゼロコロナ対策」により2カ月におよぶロックダウンを実施した影響が日本企業にとってはボディーブローのように効いており、年内にこうした状況が改善できるのかについても不透明になっています。

ヘリウムガスの供給不足でCO2レーザに大きな影響

さらに、板金加工業界ではレーザガスとして重要なヘリウムガスの供給不足が深刻になっています。国内のヘリウムガス供給は、昨年10月頃から急激にタイトになっています。ヘリウムガス販売会社は4月以降出荷量を半減しており、供給停止の可能性も指摘されています。ヘリウムガスは、半導体製造プロセスや、医療現場のMRI・医用検査装置・医用分析装置、さらには水道水の品質検査に必要な分析装置にも使われています。

CO2レーザ発振器は、CO2、窒素、ヘリウムの混合ガスに放電を加えることで増幅されたレーザビームを取り出します。ヘリウムガスがなければビームを増幅することができず、実用に供することができなくなります。ヘリウムガスは天然ガスから採取される貴重な資源で、生産国は米国、カタール、アルジェリア、ポーランド、ロシアなどに限られ、中でも米国は世界最大の生産国となっています。日本はすべて輸入に頼っていますが、コロナ禍の影響で米国からの輸送船舶が不足し、ウクライナ侵攻の影響で新たな取引先として見込んでいたロシアが非友好国への輸出を停止したことも大きく影響しています。

入手難になったヘリウムガスに関して政府(厚生労働省)などは、医療や水道事業などに優先的に供給する旨、国内の供給元5社に要請しているとも伝えられ、状況は深刻になっています。この状態が長期化すれば、CO2レーザマシンが使えなくなる事態も懸念されます。こうした事態を想定して、一部の板金加工企業はレーザガスがいらないファイバーレーザマシンに置き換える動きを見せています。

つづきは本誌2022年8月号でご購読下さい。

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