Interview

6次産業化を目指しクロモジの精油で化粧品開発

本業の板金事業は増収増益で好調を持続

東里工業 株式会社 代表取締役 髙橋 政智 氏

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画像:6次産業化を目指しクロモジの精油で化粧品開発髙橋政智氏

東里工業㈱は、設計から生産まで一貫して自社対応できる技術力と設備を保持している。

「雇用の場を維持することが地域企業としての大きな貢献」と語る髙橋政智社長は、一関工業高等専門学校を卒業後に上京し、金型製造会社に就職した。長男であったことと両親の希望で7年後に地元に戻り、当時の東山町が誘致していた金属加工業会社に就職、やがて工場長として工場運営を任された。

しかし、1999年に会社が倒産。2001年8月、髙橋社長を含めた元社員6人が、これまで仕事上で付き合いのあった企業や行政の支援をもとに再起した。「設備はほとんど残らなかったが、社員には技術が残った。ここで地元の人が安心して働ける場をつくろう」と、東里工業㈱がスタートした。

現在の社員数は78名で、年商は13億円を超えている。精密板金加工・レーザ加工・製缶加工・試作品製作・産業用機械の設計製作を手がける。

また、髙橋社長は北東北シートメタル工業会(秋田県・青森県・岩手県から53社が参加)の会長も務め、同業者の仲間づくりにも力を入れている。

創業20年をむかえる今年、同社は新たなチャレンジを行った。熊本大学、沖縄工業高等専門学校との産学連携で開発した衝撃波破砕装置を使い、クロモジ(クスノキ科の落葉低木)から抽出した精油を原料とする化粧品の製造販売に参入したのだ。ものづくり企業のコスメ事業への参入はレアケースである。髙橋社長に参入のきっかけやその狙いなどについて話を聞いた。

4月に化粧品の販売を開始

― 化粧水とクリームを4月から自社のECサイトで販売されています。コスメ事業進出の狙いを教えてください。

髙橋政智社長(以下、姓のみ) 当社は精密板金を主体に開発設計・試作・量産までを一貫して行っています。業種は自動サービス機関連、半導体製造装置関連、鉄道関連、医療機器関連、防犯装置関連と幅広く仕事をしています。自社オリジナルの太陽光パネルによる照明機器の開発・販売・施工事業も行っています。

今回発表した化粧品は、熊本大学産業ナノマテリアル研究所、沖縄工業高等専門学校の伊東繁名誉教授の研究室との産学連携で開発した衝撃波破砕装置により抽出した「クロモジ」の精油を用いています。地元の化粧品メーカーと共同で開発しました。第一弾として4月に化粧水とクリームを発表しました。今後は、アルコール飲料や一関産のもち米を使った餅への利用など、地元企業や行政とも連携して新たな地場産品づくりを目指していきます。

― 新規事業のきっかけはあったのでしょうか。

髙橋 2018年に衝撃波を使って漆を抽出できるという話を聞き、この技術を開発された伊東先生にお目にかかりました。私が「衝撃波を使って抽出した精油を原料に地場産品を開発して地元経済の発展に貢献したい」とうったえたところ、関心を持っていただき、すっかり意気投合してしまいました。衝撃波破砕装置の実物が沖縄工業高等専門学校にあるということで、私も研究室や装置を見学させていただきました。

その後、東京にいた長女に熊本大学の伊東研究室で1年ほど勉強してもらい、漆を抽出する衝撃波破砕装置を試作して実験しました。その過程で、爪楊枝にも使われるクロモジがアロマオイルにも使われていることや、養命酒製造㈱などが母体となった「クロモジ研究会」の存在を知りました。

クロモジは香りが高いクスノキ科の植物で、ほぼ日本中に自生する落葉樹です。千葉大学や愛媛大学の医学部でその医学的効能が研究され、クロモジから抽出した精油に抗ウイルス作用があることが確認されています。また、生活習慣病の予防やリラックス効果があることも報告されています。

当社でも実験しようと、一関市大東町で採取したクロモジの葉から2020年春に精油しました。同じ頃、藤沢町にあるマーナーコスメチックス くりこま高原藤沢事業所の小山茂所長と知り合い、同年7月に精油を化粧品に使用することに合意しました。

左:クロモジ用衝撃波破砕装置。1回あたり150gのクロモジの葉や小枝を5秒間で処理できる/右:共同開発したクロモジ化粧水とクリーム左:クロモジ用衝撃波破砕装置。1回あたり150gのクロモジの葉や小枝を5秒間で処理できる/右:共同開発したクロモジ化粧水とクリーム

「6次産業化」の起爆剤に

― 衝撃波破砕装置でクロモジから精油を抽出するまでの全工程を御社で対応されたのですか。

髙橋 当社の久保工場の製造2課が開発から精油までの事業を行っています。熊本大学から戻った長女もそこで作業を担当しています。

私はもともと地元産業を活性化するためには、「6次産業化」を目指さなければいけないと考えてきたので、今回の事業はその起爆剤としてぴったりだと思いました。2020年3月から大東町興田地区で試験的にクロモジの栽培事業をスタートしました。現在は地域住民の方々にもご協力いただいて、約400本の木を栽培し、今年8月中頃から本格的な葉の収穫と出荷を計画しています。ゆくゆくは栽培面積を増やしてきたいと考えています。

現在の衝撃波破砕装置は、乾燥させた葉や小枝などを入れ、5秒という短時間で破砕、抽出します。1回あたり150gの材料を入れますが、抽出できる油は少量のため、化粧水やクリームを製造するためには量が必要です。

今後、化粧品以外にもアルコール飲料や餅などの特産品の開発を計画しているので、地域の方々や企業との協力が欠かせません。

  • 画像:6次産業化を目指しクロモジの精油で化粧品開発スタンドアローンのマシンとしては非常に高い稼働率を誇るLC-2512C1AJ
  • 画像:6次産業化を目指しクロモジの精油で化粧品開発仕事量は前期から10%アップしているが、ブランク材の滞留も発生するなど、曲げ工程がボトルネックになりつつある

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会社情報

会社名
東里工業 株式会社
代表取締役
髙橋 政智
所在地
岩手県一関市東山町長坂字里前105-8
電話
0191-47-2899
設立
2001年
従業員数
78名
主要業種
精密板金、レーザ加工、製缶加工、試作、板金製作、産業用機械の設計・製作
URL
http://www.torikogyo.co.jp/

つづきは本誌2021年7月号でご購読下さい。

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