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「新常態」への対応で抜本的な改革を

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首都圏の1都3県に対する緊急事態宣言が2週間延長されました。4月号が発行される頃までに解除されていれば良いのですが、感染者の数が下げ止まりしている現状では楽観はできません。ただ、このままでは飲食業界をはじめ、コロナ禍の影響で業績が大きく落ち込んでいる業界は存続の危機をむかえてしまいます。

先般、テレビ東京の「カンブリア宮殿」の外食“非常事態”SPにオンラインで参加したすかいらーく創業者の横川竟会長と、ワタミ創業者の渡邉美樹代表のおふたりは、飲食業界のきびしい実情を話す一方、「現状を新型コロナのせいにせず、過去の成功に縛られず、『新しい日常』への対応を進めなければならない」と語っていました。さすがに創業者の気概のある発言には学ぶものがありました。

政府は新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大にともなう緊急経済対策として事業規模108.2兆円を予算化し、その後の補正予算でも新型コロナへの対策費を積み増しました。さらに、令和3年度予算の一般会計総額も、新型コロナ対策費用の増額により総額106兆6,097億円と過去最大の規模となっています。

その一方、令和3年度一般会計税収は新型コロナの影響で令和2年度よりも6兆円あまり少ない57兆4,480億円となりました。その結果、新規の国債発行額は令和2年度当初予算の段階より11兆円あまり多い43兆5,970億円となっています。すでに「国の借金」は1,200兆円を超え、国民1人あたりの借金は約983万円にのぼるとも報じられています。

日本の財政赤字はGDPの2倍を超えており、世界でも飛びぬけています。財政の立て直しを含め、日本がこれから10年先、20年先の国のあり方を考えた長期ビジョンを策定していくためには、コロナ禍の状況はある意味、千載一遇のチャンスとも考えられます。

そういう意味で大手飲食チェーン創業者は、自助努力の中でいかにして「新常態」に対応すべきか、という視点に立った発言をされていたように感じました。

新型コロナへの経済対策を契機に、欧米を中心に「グリーンディール」(脱炭素化と経済成長を両立させる産業政策)を加速させる動きが顕著となっており、経済対策の多くが再生可能エネルギーの開発や自動車の電動化に対応する取り組みに充当されています。

米国のバイデン大統領は、2035年までに電力部門でのCO2排出ゼロを実現すると宣言しました。米国にとって電力部門の脱炭素化は気候変動への対応のみならず、電気料金を引き下げることで産業競争力を高めることにもつながるからです。

国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年における米国の1MWhあたりの発電コスト(中央値)は、陸上風力が39ドル、太陽光が44ドル、天然ガスが45ドル、海上風力が66ドル、原子力が71ドル、石炭火力が110ドルと推計されています。これに対して日本は、石炭火力は100ドルと安いものの、太陽光が172ドル、海上風力が200ドルと再生可能エネルギーでは3~4倍も高いコストになっています。さらに新しいエネルギーとして期待される水素の製造コストは欧米に比べて4倍ほど高いとされています。

こうした事実を踏まえると日本の課題が山積していることは一目瞭然です。この機に古い産業構造や仕組みを一新して、抜本的なエネルギー政策や産業政策を打ち出すことが重要だと感じます。企業も国民も緊急経済対策で目の前の危機から脱出するために「国に何かをしてもらう」という考え方をやめ、「自分たちに何ができるか」を考えることが必要です。過去の成功体験をかなぐり捨てる決断が大切だと思いました。

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