「景気下振れの連鎖」につながる建設労働者不足
国土交通省が発表した「建設労働需給調査」(2024年6月調査)によると、全国8職種の過不足率は1.0%の不足となった。前月(5月調査)の0.4%の不足から、不足幅が0.6ポイント拡大した。
地域別では東北地域が1.7%の不足で、不足幅は前月(5月調査)から2.4ポイント拡大した。次いで関東(1.5%)と近畿(1.4%)で、不足幅が前月(5月調査)から1.2ポイント拡大した。
翌々月(8月)における労働者の確保に関する見通しは、「困難」と「やや困難」の合計が20.7%だった。
帝国データバンクが4月に行った「人手不足に対する企業の動向調査」では、建設業界では「2024年問題」とも関連して、「機能不全が顕在化している。人手不足が常態化すれば業績の維持・拡大が期待しにくくなるなか、中長期的に人材確保や業務効率化に向けた対策を講じられるかが、今後の事業継続を大きく左右するといえるだろう」と指摘されている。
国土交通省の「建築着工統計」によると、着工床面積は鉄骨造の建物で5月は275.9万㎡と前月比で27.4%減ったが、6月は313.8万㎡と前月比で13.7%増となった。しかし、工事現場では、建築現場の作業員のほか、エレベーターなどの設備関連や付帯工事の施工事業者も人手が足りず、ビルの需要自体はあっても工事が進んでいない。建設労働者不足はまさに深刻な状況にある。
その結果、鉄骨造のビルやマンションで柱や梁として使われるH形鋼の出荷量が落ち込んでいる。日本製鉄のH形鋼を扱う流通事業者で構成される「ときわ会」によると、「(6月の)在庫量を出荷量で割った在庫率は3.63カ月と、データを比較可能な2019年以降で最高となった」(日本経済新聞、2024年7月)と報じられている。
H形鋼の出荷量や在庫量は建築工事の多さと連動する。そのため鉄骨加工業者(ファブリーケーター、ファブ)の仕事量が減少している。全国では大小合わせて1万以上、ファブの工場があるといわれている。国土交通大臣が認定する鉄骨製作工場は、上場企業の大規模工場から、従業員数人の町工場まであり、その数は約3,000社におよんでいる。
ファブリケーターは、高層ビルを中心として建築規模はもちろん材質・板厚・作業条件などにいっさいの制限が設けられていない最上級の「Sグレード」、年間6,000トン程度の鉄骨製作を行う「Hグレード」、中高層ビルを中心に年間2,400トン程度の鉄骨製作を行う「Mグレード」、5階以下の中層ビルを中心として年間800トン程度の鉄骨製作を行う「Rグレード」、3階以下の低層ビルが対象で年間400トン程度の鉄骨製作を行う「Jグレード」に分類される。
TSMC、ラピダスといった大型半導体製造工場や都市再開発などの大規模案件の大半は、首都圏に本社を置く「Sグレード」「Hグレード」の大手ファブが受注しており、地方のM・R・Jグレードのファブは低迷している。さらに、梁や柱を溶接する際の補強材となるガセットプレート、スプライスプレート、ダイヤフラム、スタッドなどを加工する鋼材加工業者やレーザジョブショップの受注落ち込みにつながる「下振れの連鎖」が起きている。
さらに、建築工事に付帯するエレベーター、受配電設備、空調工事などの業界にも波及しており、板金業界にとっても他人ごとではなくなっている。人口減少の流れを止めることは難しいだけに、人手不足を補う対策を早急に検討しなければ「日本沈没」を招いてしまう。