板金論壇

「大廃業時代」を迎え、規模を追求する企業が増える

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

LINEで送る
Pocket

残業時間の「罰則付き上限規制」中小企業も4月1日から実施

2018年に成立した働き方改革法案が2019年4月1日から運用を開始されました。そして、中小企業のみ1年猶予されてきた残業時間の「罰則付き上限規制」が2020年4月1日から実施されます。

残業時間の上限を原則として月45時間・年360時間とし、繁忙期(臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合)でも月100時間未満・2~6カ月平均80時間以内・年720時間以内とする、原則である月45時間を超えることができるのは年6カ月まで。これを超えると刑事罰の適用もあるという内容です。

一方、月の残業時間が60時間を超えた場合、割増率を50%以上にしなければならないという「法定割増賃金率の引き上げ」については、中小企業は2023年3月末までは猶予されています。また、正規・非正規雇用労働者の不合理な格差をなくすため、判例で認められてきた「同一労働・同一賃金の原則」については、中小企業は2021年3月末まで猶予が認められています。

いよいよ中小企業でも働き方改革が本格化します。しかし、多くの中小企業で「隠れ残業」が相変わらず行われ、役職者の過剰労働が常態化しているのも現実です。本来なら、残業時間の「罰則付き上限規制」が4月1日から実施されるのを見越して、人手不足や働き方改革に対応し、限られたスタッフを活用しつつ自動化・ロボット化を進める取り組みをしてこなければならなかったのでしょう。しかし、自動化投資は大型投資になるために、そこまで手を出せなかった中小企業が多いのも事実です。

NHKスペシャル「大廃業時代」が示すもの

「働き方改革」への対応を含めて、これからの中小企業にはいくつもの難関が待ち構えています。

昨年10月に放送されたNHKスペシャル「大廃業時代〜会社を看取るおくりびと〜」をご覧になった方は多いと思います。この番組の中で、「5社に1社が1年以内に休廃業・解散する可能性がある」という帝国データバンクの予測が紹介されていました。帝国データバンクが登録する全国140万社を対象に、数値化した休廃業予測モデル「QP」を使い「廃業予測データベース」を解析しました。その結果、20%にあたる31万社もの企業が1年以内に休廃業する可能性があるという結果が得られました。この数字はかなりショッキングなものでした。

元ゴールドマン・サックスアナリストで裏千家茶名「宗真」を拝受したほどの日本通で、現在は国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社の代表取締役会長兼社長でもあるデービッド・アトキンソン氏が上梓した「国運の分岐点~中小企業改革で再び輝くか、中国の属国となるか」では、現在国内に360万社弱ある中小企業を、200万社弱に統廃合して、生産性を向上させる「中小企業改革」をしなければならない、と警鐘を鳴らしていました。アトキンソン氏は「非効率な産業構造と、中小企業の経営者に生産性を向上するインセンティブが働いていないことが低生産性の根因」として、それを解決するためには「小さな企業が異常なほど多い現状を改革し、規模を大きくしていくことが必要」と述べています。

両者の発想の次元は異なりますが、おおよそ共通しているのは、今の日本の中小企業には根本的な構造改革が必要で、それを行わないと大廃業時代を迎え、日本経済は活力をなくし、大量の失業者が発生する ― という指摘となっています。

2017年に中小企業庁が公表した試算では、全国約400万社の中小企業のうち、経営者が今後10年で平均引退年齢の70歳を超える企業は約60%の245万社に達し、その約半数の約127万社の後継者が決まっていない状況です。現状を放置すると、後継者不足から中小企業の休廃業がさらに進み、この先の約10年間で、全国で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある、とも指摘されています。

これはもはや社会問題というよりも政治問題といえます。

つづきは本誌2020年3月号でご購読下さい。

LINEで送る
Pocket

関連記事

板金論壇記事一覧はこちらから