Interview

トヨタ生産方式に基づく管理手法を実践

広義のBCP ― 災害に限らない事業継続リスクへの対策

鬼頭工業 株式会社 代表取締役 鬼頭 佳嗣 氏

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画像:トヨタ生産方式に基づく管理手法を実践鬼頭佳嗣氏

鬼頭工業㈱は、大手繊維機械・産業車両メーカーの1次サプライヤーとして繊維機械部品・産業車両(フォークリフトなど)部品の製造を手がけている。

長年にわたりトヨタ生産方式(TPS)に基づく管理手法を採り入れ、品質・コスト・納期(Q,C,D)に環境・安全・コンプライアンスをくわえた6項目を高いレベルで追求してきた。リピート率は70~80%で、ロットサイズは産業車両部品が1~3個、それ以外も5個以下という多品種少量生産。それを1個流し生産、1日2回のジャストインタイム(JIT)納品に対応することで得意先の要望に応えてきた。

顧客の指導のもと、膨大な量の作業標準、品質管理基準、安全管理標準などを整備し、社内のモノづくりの標準化を推進。今年9月からは、顧客のQ,C,D要求にさらに高いレベルで応えるため、「変革のための3原則」を打ち出し、現場力の強化と改革・改善に取り組んでいる。

2017年6月には、設立30周年をむかえた愛知県シートメタル工業会(愛知県精密板金工業会から名称変更)の会長に就任。鬼頭佳嗣社長は30周年記念式典で「技術力向上、板金業界の知名度向上、BCP対策に取り組んでいく」と抱負を述べた。

高度な管理手法を武器に“永続的改善”に意欲をみせる鬼頭社長に、板金業界の課題について話を聞いた。

トヨタ生産方式の管理手法を実践

― 現在のお仕事の状況を教えてください。

鬼頭佳嗣社長(以下、姓のみ) 現在、売上の75%くらいが大手繊維機械・産業車両メーカー向け。産業車両部品と繊維機械部品の比率はおおよそ7対3、今は繊維機械の仕事量が増えているため6対4くらいだと思います。現在は自動車業界や工作機械業界が好調なため、地域経済が活況で、当社もここ3年くらいは毎年12~13%の増収となっています。

― 御社の特徴であるトヨタ生産方式に基づく管理手法について教えてください。

鬼頭 当社はお客さまの協力会に加入しています。協力会には当然、プレス・鋳物・機械加工とさまざまな業種のサプライヤーが加入していて、板金サプライヤーは当社を含めても、わずか3~4社です。そのなかでは、当社の不良率が特別低いわけではありません。

お客さまは板金のために特別な図面を描いてくれるわけではありません。板金業界では、「図面どおりにはモノがつくれない」「図面に表現されていない暗黙のルールがある」「ある程度は“お任せ”」といったことが常ですが、当社のお客さまの場合、あらゆることを図面に表現しています。溶接であれば、突き合わせの方法や分断位置、脚長やビード長、断続溶接の間隔まで、図面上に公差入りで指示されます。

その図面どおりに正確につくることが求められているので、当社の裁量で自由につくるというわけにはいきません。製造上の支障があるようなら、必ず事前にお客さまにフィードバックして設計変更をしていただきます。

納品時に製品を載せるパレットも指定されていて、1日2回の納品のタイミングも、午前中は9時半~10時半、午後は14時半~15時半と定められています。

「つくり過ぎのムダ」はお客さまが最もきらうところです。同じ製品を指定納品日ごとに分割発注された場合も、まとめ生産をすることはありません。まとめてつくったとしても、お客さまには受け入れてもらえませんし、今日納めるほかの製品の生産に支障が出ます。保管のためのスペースや工数も必要になりますし、保管中の品質リスクもあります。今日納める分を今日つくる―1個流し生産によるJIT生産・JIT納品が大原則です。

  • 画像:トヨタ生産方式に基づく管理手法を実践パンチ・レーザ複合マシンLC-2012C1NT+AS-2512C1
  • 画像:トヨタ生産方式に基づく管理手法を実践曲げ工程。HG-1703(手前)をはじめ、ベンディングマシン4台が並ぶ

厳格なルールに基づいたモノづくり

― そうした厳格なルールに基づいたモノづくりに対応するのは大変ですね。

鬼頭 直接取引での参入は容易ではないと思います。こういう仕事をしていると、板金加工という業態がいかにマイノリティーか、痛切に感じます。

他業種と比較すると、板金業界は図面の書き方を含め「標準化」が十分にできておらず、品質管理も納期管理も大雑把です。図面にうたわれていない部分を“暗黙の了解”でつくってしまっているので、ある意味おおらかで良いとも言えます。しかしそれは、逆に言えば、業界全体の発展を妨げている要因ともいえると思います。

仕事量が増えたとき、メーカーサイドはほかのサプライヤーに分散発注したくても、“暗黙の了解”の部分のすりあわせに時間がかかってしまう。「納期が遅れる」といわれても「なんとかなりませんか」と言いながら待つしかありません。

業界では「毎日ちがうものをつくっているから不良が出るのは当たり前」といった言葉を聞くこともあります。メーカーも不良は出るものという感覚で、「不良が出てもすぐに直しにくる会社」を評価する傾向があります。

こうしたお客さまの体質に甘えたままでいると、なかなかレベルアップしていきませんし、近い将来、ひどい目に遭うような気がしています。

とくに最近は社会的に「そういう業態はおかしい」という風潮に変わってきている気がします。国内製造業の相次ぐ不祥事、公文書偽造、アマチュアスポーツ界のごたごたなどを通じて、「ダメなものはダメ」と多くの人々が考えるようになってきている。これまではお目こぼしいただけたことが許されなくなり、「ルールはルール」「決めたことはきちんと守れ」という風に変わっていったときに、対応できる板金企業はどれだけあるだろうかと考えます。

画像:トヨタ生産方式に基づく管理手法を実践左:溶接工程/右:検査工程。生産管理システムの現場端末から製品情報を呼び出す

会社情報

会社名
鬼頭工業 株式会社
代表取締役
鬼頭 佳嗣
住所
愛知県名古屋市緑区浦里3-208
電話
052-891-6181
設立
1946年(1932年創業)
従業員数
18名
主要事業
繊維機械部品・産業車両部品・工作機械カバーの製造

つづきは本誌2018年10月号でご購読下さい。

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