事業承継には、頼られ、誇れる企業体質が必要
帝国データバンクによると、2024年に全国で休廃業・解散した企業は6万9,019件に達した。前年から約1万件・16.8%増加し、現行基準で集計を開始した2016年以降で最多を更新した。休廃業した企業のうち、65.1%が資産超過だったほか、51.1%が直近損益で黒字の企業だった。
休廃業時の経営者の平均年齢は71.3歳で、4年連続で70歳代となり、調査開始以降で最高齢を更新した。ピーク年齢は75歳で、過去最高齢だった2022年に並んだ。休廃業企業の経営者年齢の上昇からは、事業承継を実施した企業と実施していない企業に二極化している状況がうかがえる。
板金業界も傾向は同じで、社長の年齢が70代、80代の会社は珍しくない。こうした企業の多くが、廃業よりもM&Aによる事業承継を考えており、銀行やコンサル会社に仲介を依頼している。
そんな中で、最近訪問した板金企業2社は、東京や大阪などで結婚し、企業や学校に勤めていた社長の子息や息女が、夫婦で事業承継を決断し、後継者として入社されていた。いずれも前職は民間企業のサラリーマンや高校教師で、ものづくり ― ましてや板金加工とは無縁の世界にいた。
それだけに「まだ心配だ」という社長もおられた。この社長は、大学院で学び、高校教師となった娘婿の「これからはものづくりがおもしろくなる時代。挑戦してみたい」という言葉で入社を認めた。
この4月からは夫婦でアマダスクールの「板金総合4カ月」コースで、専門知識と技能を習得する。図面の読み方、工程設計、展開、データ作成、抜き、曲げ、溶接、組立、検査など、工場でオールマイティーな活躍ができるように、総合的に体験し、学ぶ予定だという。
「娘は『大学で事業を引き継げる能力を身につける。私が後継者として会社を守り、発展させる』といって大阪の大学に入学しました。卒業後は在阪企業に入社したので、事業承継のことはすっかり忘れたのだろうと思っていたら、突然『婿になっても良いという彼を見つけたので、2人で入社する』と言って戻ってきました。驚くやら安心するやらで、大変でした」と、50代の社長は満面の笑顔で話してくれた。
また、従業員100名前後の中堅企業では、昨年まで80代の社長が奮闘していた。しかし、一流大学を卒業後に民間企業で働いていた孫娘が、同窓生で卒業後は米国の大学のビジネススクールで学んだ彼と結婚。昨年末に孫娘が社長、その夫が副社長として入社し、事業承継を実現した。後継者になった理由は「これからは製造業がおもしろいから」だったという。
2例とも、板金加工とは無縁な世界から「ものづくりがおもしろい」という理由で事業承継を決断している。立場はちがうが、「おもしろい」という視点は同じだ。
「両親が苦労する姿を見てきたから」「会社勤めの方が安定している」「3K職場は嫌だ」などの理由で二の足を踏む後継者は多い。その意味でも事業承継を考えるなら、経営者も含めて、働く人たちが楽しく、夢や希望を持てる会社、自分の仕事や職場を誇れる会社に変えていくことが必要になる。
2社とも工場や事務所をリニューアルし、職場環境の改善が進んでいる。SDGs対応にも意欲的で、地域コミュニティーとの関係も良好のようだ。
事業承継を考えるなら、すべてのステークホルダー ― 従業員とその家族、得意先、地域に必要とされ、頼りにされる企業体質に生まれ変わることが必要だと実感する。