研究室訪問

強ひずみ加工による高機能材料の量産技術開発

大阪産業技術研究所 先進構造材料研究室 木元 慶久 主任研究員

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再エネ社会の構築に貢献する研究

画像:強ひずみ加工による高機能材料の量産技術開発先進構造材料研究室のメンバー。中央の木元慶久主任研究員をはさんで、左が武内孝研究室長、右が長岡亨主任研究員

大阪産業技術研究所 物質・材料研究部 先進構造材料研究室の木元慶久主任研究員の研究テーマ「強ひずみ加工による高機能材料の量産技術開発」が、天田財団の2022年度「重点研究開発助成 課題研究」(塑性加工)に採択された。

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、石油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰している。日本では2011年の東日本大震災により引き起こされた福島第一原子力発電所の事故によって国内すべての原発が稼働停止し、深刻な電力危機と物価高に陥っている。その中で、太陽光・風力・バイオマス・地熱などの再生可能エネルギー(再エネ)が注目されており、政府は2030年までに電源構成に占める再エネの割合を36~38%にする目標を掲げている。

また、2030年には温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減し、2050年にカーボンニュートラルを実現することを目標としており、外憂に翻弄されない持続可能なエネルギーインフラの構築が急務となっている。出力変動が大きい再エネ由来の電力を大規模化するためには、水素蓄電も有力な選択肢のひとつになっている。

画像:強ひずみ加工による高機能材料の量産技術開発左:大阪産業技術研究所が保有する摩擦撹拌接合装置/右:摩擦撹拌によって作製された水素吸蔵合金(中央)

水素社会の実現に貢献する水素吸蔵合金

水素は、九州や北海道の余剰電力による水分解で製造できるほか、オーストラリアの褐炭から製造した水素を液化し輸入する事業が進行中である。2019年、清水建設と産業技術総合研究所(産総研)は、大規模・長期間・コンパクトに水素を貯蔵できる「水素吸蔵合金」の特長を生かし、Ti-Fe系水素吸蔵合金ボンベに蓄電する自立型エネルギー供給システム(東芝製)の実証実験を開始した。

水素と相性の良い(化合して水素化物をつくりやすい)金属に、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ランタン(La)などがあり、相性の悪い(化合しにくい)金属に、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)などがある。これらをある配合比(組成)で混ぜて合金にすると、圧力や温度を利用して比較的簡単に水素を吸蔵し、また水素を放出することができる。これが水素吸蔵合金である。

現状の高圧水素タンク(最高700気圧)搭載水素ドローンには、落下衝撃緩和措置が義務付けられているが、約10気圧で水素蓄電できる水素吸蔵合金ボンベを採用できれば、措置の簡素化および高圧ガス保安法適用除外による普及促進が期待でき、水素社会の実現も加速できる。

つづきは本誌2023年11月号でご購読下さい。

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