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脱炭素化へ向け「SBT」の認定取得が課題

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今年の夏は記録的な猛暑となり、9月に入っても残暑が続き、お彼岸も近づいているのに暑さは一向に衰えない。さすがに熱帯夜は減り、宵の口には虫の音が聞こえるようになったが、毎年この時期に通勤途上で見かける「曼珠沙華(マンジュサゲ)」、別名「彼岸花」が今年はまだ一向に咲く様子がない。

それどころか、日本近海で発生した台風が次々に接近し、記録的な大雨による川の氾濫やがけ崩れといった災害も増えている。

その原因のひとつが、地球温暖化による海面水温の上昇である。太平洋赤道領域の日付変更線から南米沿岸にかけて海面水温が平均よりも上昇する「エルニーニョ現象」が発生し、今年は海面水温の上昇値が過去最大に迫る「スーパーエルニーニョ」が到来しているとも言われ、この現象は2024年も続くと予想されている。これによって偏西風の流れが変わり、天候にも大きく影響する。

地球温暖化に対する取り組みとして、2015年にフランス・パリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)で、新たな法的枠組みとなる「パリ協定」を含むCOP決定が採択された。パリ協定では、先進国だけでなく、世界各国が新たな枠組みに対する約束草案を国際気候変動枠組条約事務局に提出した。日本は、約束草案に温室効果ガスの排出量を2030年までに2013年比で26%削減するとの目標を盛り込んだ。

2020年10月には菅総理大臣が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2021年4月には2030年までの温室効果ガスの排出削減目標を大幅に引き上げ、2013年度比で46%削減するとした。

このため、脱炭素への取り組みは国をはじめとした行政のみならず、大企業、中小企業にも求められている。そのため、自分の会社がどれだけ温室効果ガスを排出しているか把握・算定することに始まり、対外的に温室効果ガスの削減目標を掲げるため、「SBT」(Science Based Targets)の認定を取得することが求められるようになってきた。

SBTは、パリ協定が求める「世界の平均気温の上昇を産業革命前より2度を十分に下回る水準、できる限り1.5度に抑えることを目指す」という水準に整合した企業が設定する温室効果ガス排出削減目標である。

SBTに取り組む企業は、運営事務局である「SBTi」(SBTイニシアチブ)に申請を行い、自社が設定した2030年までの削減目標について認定を受けることができる。削減対象は、自社の排出量だけでなく、企業の事業活動に関係する排出量を合算した「サプライチェーン排出量」となる。

SBTは排出量を排出の方法や主体で分類しており、「Scope1」(自社による直接排出)、「Scope2」(他社から供給された電力などの使用にともなう間接排出)、「Scope3」(Scope1とScope2以外の調達・製造・物流・販売・廃棄など各段階での排出)となる。大企業は「Scope3」の排出削減目標を設定する必要があるが、従業員500名以下の中小企業では「Scope1」「Scope2」までとなっている。大企業にとっては、中小企業を含む協力企業の排出量が「Scope3」に含まれるため、協力企業にも排出量の算定や、SBTの認定取得を求めてくることが想定される。

すでにSBTの認定を取得した板金企業の経営者のひとりは「2025年頃にはQ,C,D+C(Carbon)が協力工場の選定基準になるのではないか」とも語っていた。脱炭素化への取り組みは誰かがやってくれるものではなく、地球に住む人類一人ひとりが真剣に取り組むべき課題となっている。

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