Interview

「工作機械産業ビジョン」から見えてくる課題

工作機械産業は持続的に成長を続ける ― 日本の強みを再認識し、維持・発展させることが必要

東京農工大学 名誉教授 堤 正臣 氏

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画像:「工作機械産業ビジョン」から見えてくる課題堤正臣氏

一般社団法人日本工作機械工業会(会長:ファナック㈱会長・稲葉善治氏)は、創立70周年記念草子「工作機械産業ビジョン2030」(以下、ビジョン2030)を刊行した。副題に「我が国工作機械産業の展望と課題」と附されているだけあり、工作機械産業を取り巻く環境に対応した業界の今後の課題解決の方策を網羅的に監修した、総ページ数390ページにおよぶ内容となっている。

「ビジョン2030」は、「第1章:工作機械需給と主要ユーザー産業の動向」「第2章:我が国工作機械産業の経営」「第3章:工作機械づくりの動向」「第4章:ビジネスモデルの変革」「第5章:JIMTOFの課題と展望」「第6章:工作機械の輸出管理」「第7章:ものづくり人財の確保と育成」の7つから構成される。それぞれの立場から世界の主要産業動向が分析されており、日本の工作機械産業発展の方向性を示す内容となっている。

冒頭には「総論」を展開、「中国の国産化動向およびその戦略」「気候変動問題」「工作機械に係る輸出管理」などの喫緊の課題についてもまとめている。

そこで編さんを担当し、「工作機械産業ビジョン2030検討会議」の座長を務められた東京農工大学の堤正臣名誉教授に業界の動向や、これからの工作機械産業、ものづくりに欠かせない課題について話を聞いた。

7つの側面から工作機械産業の課題を抽出

― 「ビジョン2030」では国際情勢や社会情勢を反映して、2030年を目標とするSDGs(持続可能な開発目標)、2050年カーボンニュートラルに向けた経営戦略、デジタル社会への対応、事業承継など喫緊の問題も包含されていると言われています。

堤正臣教授(以下、姓のみ) 「ビジョン2030」の編さんは当初、10年前に編さんされた「工作機械産業ビジョン2020」を補完する目的でスタートしました。しかし、環境が大きく変化してきたことから、工作機械産業にも新たな課題 ― 気候変動対策、新型コロナなどの感染症対策、ウクライナ危機をはじめとした地政学的リスクなどが次々と出てきて、変革期をむかえていました。その中で日本の工作機械産業の進むべき方向をあらためて検討することは、とても重要だと思います。

本ビジョンは「創立70周年記念草子」とあるように、本来は24名の検討会議の担当者がそれぞれワーキンググループをつくってテーマごとに意見を出し合い、各担当者のコンセンサスを採ってまとめるものなのでしょうが、コロナ禍によりWeb会議が主となり、リアルに意見交換をする機会がありませんでした。そのため、まとめられた内容は執筆担当者の個人的見解が主となり文字どおりの「草子」となっています。しかし、思いがしっかり書かれているので読み応えがあり、示唆される内容も豊富に網羅されています。

ビジョンは7つの側面から国内外の主要産業の動向を分析、日本工作機械産業の発展の方向性を示唆する内容になっています。さらに、SDGsを実現するための方策、カーボンニュートラル実現に向けた経営戦略、デジタルトランスフォーメーション(DX)社会への対応、事業承継などの課題への対応についても考察しています。非売品で日本工作機械工業会の会員企業以外の方々が目にする機会が少ないのは残念ですが、工作機械産業が取り組むべき重要な課題が抽出されており、ESG経営、BCP策定、カーボンニュートラル経営戦略(CN経営戦略)など、それぞれの企業で実行に移せるものは実行してほしいと思います。

キーワードの出現頻度では「中国」がトップ

― リアルに意見交換できない中で座長としてビジョンの取りまとめをされるのは大変でしたね。

 それぞれの担当者、ワーキンググループでまとめられた400ページにもおよぶ原稿を3度読み返しました。その中で注目したのが「ビジョン2030」に表現されているキーワードの出現頻度(図1)です。各担当者がどんなキーワードを使って現状を分析して提言をまとめているのかを分析することで関心の程度や課題解決の方向性が見えると思いました。まず、100ちかいキーワードを選び、Adobe Readerの検索機能を使って調べました。

最も出現頻度が多かったのが「中国」、次いで「輸出管理」「サービスエンジニア」「人材育成、人材確保」「環境」「デジタル」の順になり、国名では中国、米国、欧州、ドイツの順になっています。「環境」についてはカーボンニュートラル、温暖化、省エネなどが多くなっています。「デジタル」に関しては、デジタルツイン、DX、AI、IoT、ITを加えると中国に次ぐ多さとなりました。「工作機械技術」に関連するキーワードでは複合化、複合加工、AM(Additive Manufacturing:積層造形)、5軸、剛性、多軸の順になりました。

画像:「工作機械産業ビジョン」から見えてくる課題図1:「工作機械産業ビジョン2030」にみるキーワード出現頻度ランキング

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