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経営の「王道」と「覇道」に悩む2代目経営者

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板金業界でも最近、若手経営者の間で京セラの名誉会長である稲盛和夫氏の経営哲学に心酔される方が増えている。日本ばかりかと思っていたら、先日お会いした台湾の経営者の中にも稲盛氏の日本語の著作を経営のバイブルとして、総経理室の書棚に並べている方がおられた。

稲盛氏の人生哲学や経営の真髄を学びたい経営者が集まり、30年ちかく前に「盛和塾」が発足した。塾数は国内54塾(7,366名)、海外27塾(2,022名)で、塾生数は合計9,388名(2015年5月末現在)となっているそうだ。塾生として研鑽を積み、その成果を自社の経営に役立たせ、目覚ましい経営改革を実現、「稲盛経営賞」を受賞された板金経営者もいる。「経営の要諦とは経営者の心の持ち方」とする稲盛氏は、塾生に経営のコツとして次の3点を挙げておられる。

1.従業員を自分に惚れ込ませ、一体感が持てるような人間関係をつくる

2.月次の損益計算書を次の月初に出し、月次の売上と経費を細かくチェック、問題があれば適切な改善の手をすぐ打つ(「売上を最大に、経費を最小に」)

3.フィロソフィーを全従業員で共有する(みんなが同じ判断基準を持つ)

何気ない言葉のようだが、有言実行となるとなかなか大変なことだ。しかし、この大変さを克服して先代から継承した会社をさらに発展させている2代目経営者は多い。台湾の企業は2代目よりも創業者が多く、創業者がこの考えを踏襲されている場合が多い。

私が社会人になった頃は松下幸之助が経営の神様として多くの経営者から尊敬され、「幸之助語録」がもてはやされていた。水道の水のように低価格で良質なものを大量供給することにより、消費者の手に容易に行き渡るようにしようという「水道哲学」に、私も多くのことを学んだ経験がある。幸之助語録が「商いの道」を説いているのに対して、稲盛氏は経営者の「心や意志」について語り、経営者が「王道」を歩くことの大切さを説かれている気がする。

カリスマ経営で起業した創業者はある意味で、知力や武力を持って会社を発展させてきた。いわば、「覇道」(利益追求)を歩き、会社を大きくしてきた側面がある。しかし、事業後継者として育ってきた2代目はカリスマ性がないだけに、いわば「徳」を持って経営を行う「王道」を求めているからこそ、経営者の心の持ち方を説く稲盛氏の言葉に心酔し、熱心な稲盛信奉者が生まれているのかもしれない。

王道、覇道を説いた孟子は、王道こそを理想としている。稲盛氏が孟子の影響を受けられたかは分からないが、最近の風潮を見ているとそんな気もする。しかし、稲盛氏を信奉する台湾の創業社長には力強い経営者も多く、時には力相撲を取る方もおられる。また、2代目、3代目であっても豪腕で新規事業を立ち上げ、数年で売上を2倍、3倍に拡大したバイタリティーある経営者もいる。海外に工場をもたれている2代目経営者は国内外の従業員を自分に惚れ込ませ、フィロソフィーを全従業員で共有し、みなが同じ判断基準を持つように日々努力されている。そのための“飲ミュニケーション”も機会のひとつと捉え参加している。

経営者はどこまで行っても孤独で、誰に相談できるわけでもなく、最後は自分で決断しなければいけない。それだけに心の持ち方 ― 経営者としての意志の持ち方で悩んでいる。

Sheetmetal誌が少しでもこうした経営者の方々の相談相手になれるよう、これからも努力したい。

フィロソフィー 企業哲学・企業理念

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