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ウィズコロナ・アフターコロナを見据えた業界再編

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新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大の影響で低迷していた経済も、各都道府県に出されていた「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」が解除されたことで、徐々に活気を取り戻しつつある。しかし、中には低迷を続ける業界・業種もあり、二極化が際立っている。ウィズコロナ、アフターコロナを見据え、“止血”から一歩進んだ経営のかじ取りが求められている。

感染拡大の時期に政府が打ち出した緊急経済対策による持続化給付金・家賃支援給付金などの現金給付事業のうち、持続化給付金の支給件数はこれまでに約424万件、給付額は約5.5兆円にのぼる。家賃支援給付金の支給件数は約104万件、給付額は累計で約9,000億円にもなったという。この給付事業で急場をしのいだ中小企業、個人事業者が数多くいたことがわかる。

政府は、新型コロナの影響で立場が弱い中小企業に取引条件の悪化などのしわ寄せが向かうことを懸念して、「大企業と中小企業が共に成長できる持続可能な関係を構築するために」を合い言葉に、「パートナーシップ構築宣言」の普及に力を入れた。パートナーシップ構築宣言は、企業の代表者名で、企業規模にかかわらず「発注者」の立場から自社の取引方針を宣言するというもので、すでに3,782社(11月19日時点)が登録している。

宣言を行う企業は、①サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を超えた新たな連携、②親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行(下請中小企業振興法に基づく「振興基準」)の遵守 ― への取り組みを宣言に盛り込む必要がある。ひな型をもとに各社が宣言を作成し、「下請代金は現金で払う。手形は発行しない」「20日締め、翌月10日に現金振り込み」などと明記する企業も出ている。

宣言を行った企業は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ビジネスモデル構築型)」などで加点措置を受けることができる。

しかし、パートナーシップ構築宣言を行った得意先であっても、鋼材価格をはじめ、資材高騰によるコスト上昇分を受注単価に転嫁することについては、なかなか色よい返事をしてくれないのが実態だ。

新型コロナの感染拡大にともないグローバルサプライチェーンが寸断され、半導体をはじめとした部品・資材の供給難が発生し、さらには石油価格・原材料価格の高騰により鋼材価格が新型コロナ以前の2倍ちかくまで高騰している。パートナーシップ構築宣言とは裏腹にサプライヤーの切り捨てが横行している。

中小企業の経営者の多くは、こうした宣言などで取引条件が好転するとは考えていない。逆に「パートナーシップを構築できる企業とだけ取引することが推奨されると、協力会社の再編に利用される」と語る経営者もいる。

ある板金企業の経営者は「以前は、板金業界で中堅企業として認知されるためには『年商10億円が壁』といわれていた。しかし、最近はそれが15億~20億円にまで上がっている。今後は“パートナーシップ”を口実に協力会社の再編がさらに強まる」と述べている。

別の経営者も「最近の設備は1億円以上が一般的。借入金利が低いとはいえ、償却負担を考えると規模の小さな企業は導入できない。高額な最新設備が導入できる企業は限られる。さらに、板金・溶接にとどまらず、溶接ひずみ除去のために門型5面加工機などを導入し、仕上げ加工までワンストップで対応する板金企業に仕事が集中する。単純な形状の板金部品はWebプラットフォームを活用した受発注サイトから、安く調達する流れができつつある。確実に業界再編が加速し、企業の数はさらに減少する」と指摘する。

ウィズコロナ・アフターコロナを見据えた構造変化への対応が求められている。

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