研究室訪問

高純度水素を大量に取り出す水素分離合金膜の形状最適化と成形技術の開発

名古屋大学大学院 工学研究科 湯川 伸樹 准教授

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世界初の非Pd系水素透過合金平膜を用いた高純度水素製造への道を拓く

名古屋大学大学院 工学研究科の湯川伸樹准教授は、天田財団の令和2年度「重点研究開発助成(課題研究)」に塑性加工分野で採択された。研究テーマは「大型水素分離合金膜の形状最適化および成形技術の開発」。

2050年までに日本がカーボンニュートラルを実現するために注目されているのが水素エネルギーだ。水素は利用時にCO₂排出がないことから、化石燃料の代替やエネルギー貯蔵の手段としての利用が期待されている。自動車や家庭で用いられる燃料電池には高純度の水素が用いられており、その実用化のために水素貯蔵密度の高いアンモニアや有機ハイドライドなどのエネルギーキャリアから、高い効率で高純度水素を取り出すことが可能な水素分離合金膜が注目されている。

水素透過用合金としては、Pd-Ag合金を代表とするPd(パラジウム)合金が唯一実用化されている。しかし、Pdは高価で資源量も少ないため、大量に使用するのが困難な材料である。このPdの代替として、V(バナジウム)やNb(ニオブ)、Ta(タンタル)など周期表5族金属、およびその合金を用いた水素分離膜が期待されている。しかし、これらの金属は水素による脆性破壊が著しく、このことが非Pd系合金水素透過膜の実用化を妨げる大きな課題だった。

そこで、これらの金属を合金化することにより、高い水素透過能を維持しつつ、耐水素脆性に優れる水素分離合金膜が開発されてきた。実用的な水素流量を得るために、合金膜のさらなる大面積化が必要であるが、合金膜を大型化すると水素透過操作後の膜にしわが発生してしまうことがわかっている。このようなしわは大型水素透過合金膜を実用化する上で克服しなくてはならない大きな課題となっている。

本研究では大型水素分離合金膜の形状最適化および成形技術を開発することにより、これらの課題を解決し、世界初の非Pd系水素透過合金平膜を用いた高純度水素製造への道を拓くことを目指している。

画像:高純度水素を大量に取り出す水素分離合金膜の形状最適化と成形技術の開発次世代エネルギーキャリアからの水素製造イメージ

塑性加工プロセスの計算機シミュレーションを研究

湯川准教授は1982年に名古屋大学 工学部 鉄鋼工学科を卒業後、名古屋大学大学院 工学研究科 金属工学および鉄鋼工学の博士課程に入学、1985年に博士課程前期課程を修了し、1987年に金属工学および鉄鋼工学専攻で博士課程後期課程を修了し、博士(工学)を取得した。

1988年4月から1989年3月まで日本学術振興会・特別研究員として「極薄板の形状不良に関する研究」を行った。1988年9月から1990年4月までは米国・ミシガン大学 工学部の客員研究員として留学した。そして帰国した1990年5月から1995年3月までは名古屋大学 工学部の助手、1995年4月から1998年3月は同講師、1998年4月から2007年3月までは工学部の助教授を務め、2007年4月からは現職である名古屋大学大学院 工学研究科の准教授となっている。

主な研究は「圧延、鍛造における欠陥、不良現像の解明」「有限要素法におけるアダプティブリメッシング」「延性破壊の有限要素解析」「熱間鍛造における組織・特性予測」「異種金属の固相接合」などとなっている。

画像:高純度水素を大量に取り出す水素分離合金膜の形状最適化と成形技術の開発名古屋大学大学院 工学研究科の湯川伸樹准教授(後列・右から2 番目)と研究室のメンバー

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