Interview

“ものづくりの情報の上流”からコミットする

Win-Winの関係で付加価値を生み出す仕組みづくり

株式会社 浜野製作所 代表取締役CEO 浜野 慶一 氏

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画像:“ものづくりの情報の上流”からコミットする浜野慶一社長

東京都墨田区の㈱浜野製作所は、設計・開発・OEM、板金・プレス・機械加工・溶接のエキスパート集団として、中小製造業の既成概念にとらわれない新たな挑戦を続けている。

浜野慶一社長は、東京の大田区や墨田区、大阪の東大阪市など、ものづくりの集積地から急速に中小製造業が姿を消していることに危機感を募らせ、中小製造業が直面するきびしい経営環境からの脱却を模索。自社の強みと東京の“地の利”を生かし、“ものづくりの情報の上流”からコミットメントすることによって「下請け体質からの脱却と“都市型・先進ものづくり”への挑戦」(浜野社長)に取り組んでいる。

これまで手がけてきたプロジェクトは、産学官連携による電気自動車「HOKUSAI」と深海探査艇「江戸っ子1号」の共同開発、「配財プロジェクト」を運営元とした墨田区のオープンファクトリーのイベント「スミファ」、最先端の技術やアイデアを持つスタートアップなどの新規事業を支援する拠点「Garage Sumida」など、多岐にわたる。こうした実績が評価され、数々の表彰を受けているほか、2018年には天皇陛下(現・上皇陛下)も天皇在位最後の行幸に訪れた。

ベンチャー支援の㈱リバネスと資本・業務提携を結び、「Garage Sumida」を主拠点に、ものづくりベンチャー支援にも取り組んできた。7月には、㈱ジェイテクトの新規事業として発足し、製造業マッチングクラウドサービスを展開する㈱ファクトリーエージェントと業務提携、日本のものづくり産業の継続的発展を目指す

浜野社長に、同社の取り組みの狙いと今後の展望について話を聞いた。

“ものづくりの情報の上流”からコミット

― コロナ禍の影響が懸念されます。足もとの業況はいかがですか。

浜野慶一社長(以下、姓のみ) 製造業はサプライチェーンの中で動いているので、飲食・観光・物販などのサービス業と比べると数カ月遅れで影響がじわじわと出てきます。立ち話で聞く限りですが、周辺の中小製造業で「業況が良い」という企業はほとんどなく、「8月以降はいっそうきびしくなる」という声が圧倒的に多いと感じます。全体的な傾向としては、特定の業種・得意先への依存度が高い会社が苦しんでいるようです。

当社は、3月まで好調でした。4月は前年同月比で5%くらい減少し、5月は同10%くらい増加しました。6~7月は当初の計画と比べると不調ですが、当社の場合は業種の幅が非常に広く、お客さまの数も延べ5,000社以上ありますから、マイナスの影響が緩和されていると思います。

― 8月以降の見込みは、いかがでしょうか。

浜野 お客さま自身が予測を立てられない状況なので、何とも言えません。しかし秋口以降は、数年前から進めてきた事業構造の変革の取り組みが実を結び、急速に業績が回復すると予想しています。

お客さまから図面をいただき、見積りをして、一番安いところに仕事が落ちる ― これが通常のサプライチェーンにおける部品加工のビジネスです。しかし、当社の工場は東京23区内にあり、人件費も土地代も高く、騒音の問題もあります。広大な敷地に自動化設備を導入して24時間操業するようなことはできず、地方や海外の同業他社と競っても勝ち目はありません。その意味では東京は「ものづくりに最も適していない地域」と言えると思います。

しかし、目線を変えてみると、東京の“地の利”も見えてきます。東京には大手企業の本社や研究開発部門が集積し、大学・研究機関も多く、ベンチャー企業やクリエイティブな人材も集まっています。そこで当社は以前から、“ものづくりの情報の上流”からコミットメントし、下請け体質から脱却することを目指して、さまざまな仕掛けづくりをしてきました。

画像:“ものづくりの情報の上流”からコミットする2017年にリニューアルオープンした「Garage Sumida」のコワーキングスペース(左)と、スタートアップが入居するインキュベーションルーム(右)

「Garage Sumida研究所」を立ち上げ

― 「事業構造の変革」とは、具体的にはどういった取り組みになるのでしょうか。

浜野 7月に、情報発信・情報収集の窓口として、墨田区内に「Garage Sumida研究所」(以下、研究所)を立ち上げました。「研究所」では、ものづくりの“周辺”をビジネスに変え、新しい市場の創出を目指します。

これまでも設計や開発のセクションを社内に立ち上げ、“ものづくりの情報の上流”からのコミットメントを目指してきました。「研究所」は、さらにもう一段上流に範囲を広げる取り組みです。この「研究所」の具体的な実績が秋口以降に生まれてくると思います。

― 「研究所」の組織的な位置づけは、どのようなものになるのでしょうか。

浜野 「研究所」は浜野製作所の部署のひとつですが、「研究所」の中はフラットな組織づくりを考えています。私も、執行役員も、入社4年目の社員も、全員が「主席研究員」で、全員が「研究所」を運営する当事者として志と危機感を持って取り組んでいきます。

当社スタッフだけでなく、外部の方々 ― 大手外資系コンサル会社のシニアパートナー、大手自動車メーカーの設計者、大手シンクタンクのスタッフ、大学の教員、公益経済団体のメンバーなどに「研究員」として参加していただき、異なる視座・知見を巻き込みながら新しい製品・サービスを創出していきます。

当社の本業は部品加工ですから、“情報の上流”や“周辺”からコミットすることで部品加工の付加価値を高めていくこと、ものづくりに“周辺”の情報やコンサルタント、コネクテッドといった要素を付随させることで新たな付加価値を生み出すことが当社の狙いになります。

同社によるスタートアップ支援の事例。左:分身ロボット「OriHime」を開発した㈱オリィ研究所の代表取締役CEO・吉藤健太朗氏(左)と浜野社長(右)(撮影:香川賢志)/右:WHILL㈱のパーソナルモビリティ(次世代型電動車椅子)「WHILL」同社によるスタートアップ支援の事例。左:分身ロボット「OriHime」を開発した㈱オリィ研究所の代表取締役CEO・吉藤健太朗氏(左)と浜野社長(右)(撮影:香川賢志)/右:WHILL㈱のパーソナルモビリティ(次世代型電動車椅子)「WHILL」

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会社情報

会社名
株式会社 浜野製作所
代表取締役CEO
浜野 慶一
所在地
東京都墨田区八広4-39-7
電話
03-5631-9111
設立
1978年
従業員数
56名
事業内容
各種装置・機械の設計開発、架台・筐体設計・製作、精密板金加工・レーザ加工、金属プレス金型設計・製作、金属プレス加工、切削加工・機械加工、複合加工、各種アッセンブリ加工、ラピッドマニュファクチャリング(3Dプリンター・レーザーカッター・CNC加工・UVプリント・3Dスキャン・3Dデータ作成)
URL
https://hamano-products.co.jp/

つづきは本誌2020年9月号でご購読下さい。

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