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“人”と社会にやさしい自動化技術

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第4次産業革命やデジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれIT技術が進化する一方で、“人”が主役であることを忘れると、AIが人間に代わって社会の発展の主役になり得る「シンギュラリティ」(技術的特異点)をむかえることになってしまう。

そのとき、“人”と社会はどうなってしまうのだろうか。人口減少が続き、高齢者人口が全人口の半数以上になり、若者や子どもたちへの投資がなおざりにされ、若者人口はさらに減り、活力を失った日本経済はますます疲弊する。そこで、日本再生を目指す為政者が、AIを使って「生産性」のみで“人”を判断し、価値のない者が淘汰されることで「選ばれた人」のみの社会が到来する ― そんな空想小説も登場している。小説の世界ならば笑って済ますことができても、現実の社会でこうしたことが起きれば大変なことになる。

思い起こされるのは、1811~1817年にかけて英国の労働者の間で広がった機械打ち壊し運動 ― 「ラッダイト運動」である。ノッティンガムの編み物工たちによって工業用機械の破壊が始まり、のちにヨークシャーの羊毛工業労働者、ランカシャーの綿工業労働者などに波及した。機械化によって仕事を失う危機に直面し、賃上げもままならなくなった労働者が、雇用を守り、労働条件を改善させるために行動を起こした。

こうした運動と同じようなことが、近未来に起こらないとは限らない。世界最高の高齢化率をほこり、世界最速のペースで高齢化が進展している日本だからこそ、“人”を中心とした社会を今後どのようにつくり上げていくか真剣に考える必要がある。

製造業でも“人”を中心に、ものづくりのあり方を考えることが必要になっている。AIを活用し、自動化やロボット導入が進んだとしても、現場の主役は“人”であることを忘れてはいけない。単純作業や搬送は自動化されても、工程管理や難工程などは人が担い、現場から“人”がいなくなることはない。製造現場に求められるのは「人の働きやすさの改善と成果を上げること」 ― そのためにIT技術がどれだけ“人”に寄り添い、“人”を支援できるかが大きなポイントになる。

「人の働きやすさ」の根幹にあるのは「安全・安心の担保」である。働きやすい現場をつくるには、肉体的・精神的に過度な負荷がかからない状態を保つことが必要だ。そのうえで「やる気」を喚起し、創造力や気づきのような直感力といった“人”ならではの強みを生かせる「作業者ファーストの現場」を実現していくことが重要だ。

人手不足が深刻化する中では、ロボットは3K仕事を変革するとともに、“人”の作業負荷平準化にも有効といわれる。特に今後は協働ロボットの活用が考えられる。ロボットをより“人”の感覚に近づけて安全を担保し、心地よく働いて作業性を上げることを考えなければならない。

IoTの活用も重要だ。IoTは作業状況の把握に使われるケースが増えているが、作業者側からは「監視されている」「評価の判断材料にされる」など、ネガティブに捉えられることもある。IoTが現場にとって窮屈なツールと誤解されかねない。しかし、IoTの本来の目的は、“人”が安全・安心にミスをすることなく作業すること ― ミスをなくし、作業効率を改善できるようになれば、作業者のモチベーションも向上する。

IT活用による自動化技術は、人手作業を効率化するために生まれ、経済合理性を主目的として発展してきた。その副産物として、人の負荷を減らし、多くの幸せもつくり出してきた。これからの自動化技術は、経済合理性一辺倒でなく、「人と社会にやさしい技術」にしていかなければならない。

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