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新元号に相応しい生き方を考える

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新元号が「令和」に決まりました。新元号選定にあたり、日本最古の歌集「万葉集」の「梅花(うめのはな)の歌三十二首」の序文にある「初春の令月(れいげつ)にして、気淑(よ)く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披(ひら)き、蘭は珮後(はいご)の香を薫す」から引用したといいます。

この歌は「時は初春の良き月、空気は美しく風も和やかで、梅は鏡前で装うように白く咲き、蘭は身に帯びた香りのように香っている」と解釈されるといいます。梅は、松や竹とともに目出度い植物としても珍重され、熟した種は食用としてはもちろん薬用としても用いられ、どのような場面でも活用される貴重な植物です。日本人の好きな桜ではなく、香り高い梅の花を詠んだ歌32首から選ばれたというのも日本人の繊細さを表しているように感じます。

安倍晋三首相は談話で「厳しい寒さの後に春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりの日本人が明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる、そうした日本でありたいとの願いを込め、『令和』に決定した」と述べていましたが、その想いには共感します。

大宰府に左遷された菅原道真公は、都を去るにあたって「東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな」と詠みました。梅には、艶やかさというよりも楚々とした奥ゆかしさ、春を告げる喜びを感じます。それだけに「令和」という響きは、雅さと未来への期待を感じさせてくれ、日本人の琴線に響く語感であり、字面でもあります。

手話で「令和」を表現する動作も、「未来を目指し、つぼみが花開く」ことをイメージしたシンプルなものに決定しました。「明治」「大正」「昭和」「平成」には優雅さよりも時代の勢いを感じていたので、新元号の時代には日本人の豊かな感性が感じられるような落ち着いた時代になってほしいという期待があります。

しかし、令和の時代は落ち着いた感性を育むような時代にはならないのかもしれません。

モノづくりの世界は、AIやロボットの出現と「働き方改革」で大きく変わり、我々の暮らしは豊かなものになると考えられています。一方で、2045年 ― 令和27年にはAIは人間の脳を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に到達するといわれています。

2015年に野村総合研究所が「10~20年後、国内の労働人口の約49%がAIやロボットで代替可能になる」という報告書を発表して話題になりましたが、これからは人が人にしかできない仕事をどのように見つけていくかが大きな課題となります。そして所得格差への対処も課題となります。AIやロボットの普及によって、富裕層と低所得者層との格差はこれからますます広がっていくことが考えられます。それだけに日本人一人ひとりが豊かさを感じられる社会をどのようにしたらつくることができるのかを考えていかなければなりません。

1950年に刊行されたアイザック・アシモフのSF小説「われはロボット」には「ロボット工学3原則」が記されています。第1法則:ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその危険を看過することによって、人間に危害をおよぼしてはならない。第2法則:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなくてはならない。ただし、与えられた命令が第1法則に反する場合はこの限りではない。第3法則:ロボットは前掲の第1法則および第2法則に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない ― この内容を読み返す必要があります。

元号に相応しい世の中をつくり出すために、私たちは梅をはじめとした花々や、周りの自然と共生できる環境をつくらなければいけません。新元号に相応しい生き方を考える必要があります。

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