板金論壇

季節のなかで次の一手を考える

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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新たなスタートに向けて

毎年3月、4月は新入社員や新入生が新たな人生の門出を迎える時期であるとともに、長年勤めた会社に別れを告げる時期でもあります。

4月初め、通勤途上の電車内はいつもとはちがった混雑が見られ、地方の訛りの混じった話し声を聞くたびに、心が沸き立ちます。

その一方で退職の挨拶に来られた知り合いと相対すると、まだまだ気力・体力が満ちあふれ、昨日とまったく変わりがないのにとか、これまで蓄積したものが灰燼に帰すのかと惜しまれたりもします。また、最近は退職の挨拶状の代わりに、挨拶メールが送られてくるので、そうした方々に思いをはせながら、ありし日を回顧することもあります。

そういう意味で「弥生(やよい)」 ― 3月は、新たなスタートに向けた月という意味合いがあります。もともと弥生という言葉の由来は、「しだいにやわらぐ陽光の下、草木が息吹きだし、生い茂る月」という意味の「木草弥(きくさい)や生(お)ひ茂る月(づき)」が詰まって「弥生」になったという説が有力だそうで、草木の芽吹きを楽しむように、冬の間に蓄えていた生命の息吹が外へ現れ始めるころと心がけるのが良いようです。

日本人の身体に染みついた季節感

新入社員や新入生を草木の芽吹きにたとえるなら、ふと気がつけば道端に咲いている名もない花に目を向け、その姿を楽しむことは自然の成り行きかもしれません。そして同じ目線で見ず知らずの黒や濃紺のスーツで身を固めた新入社員やおろしたての制服をまとった新入生に目を向けるとき、「幸あれ」と願うのは年を重ねた証拠でしょうか。

一方、4月は旧暦では「卯月(うづき)」と呼ばれます。卯の花が咲く季節で、「卯の花月」の略とする説が有力とされ、卯月の「卯(う)」は「初(うい)」や「産(うぶ)」につながることから、1年の循環の最初を意味するという説があるようです。年度のはじまり、という意味では卯月はもっとも相応しい呼び名かもしれません。

卯の花は、唱歌「夏は来ぬ」で「卯の花の 匂う垣根に 時鳥(ホトトギス) 早も来鳴きて 忍音(しのびね) もらす 夏は来ぬ」「さみだれの そそぐ山田に 早乙女が 裳裾(もすそ) ぬらして 玉苗(たまなえ) 植うる 夏は来ぬ」と歌われているとおり、厳密にいえば季節は夏になります。

弥生にしても、童謡「さくらさくら」で「さくら さくら やよいの空は 見わたす限り かすみか雲か 匂いぞ出ずる いざやいざや 見にゆかん」と歌われているように、本来は盛りの桜を楽しみ、別れを惜しむ気持ちが含まれる4月の季節をさしています。

そうして旧暦の月を今に当てはめると、少しずれていることがわかります。しかし、日本人の身体に浸み込んだ季節感で読むと、季節に対応した人々の営みが言葉の中から読み取れるような気がしてきます。

つづきは本誌2018年5月号でご購読下さい。

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