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特定の得意先を持たず、ニッチな分野を得意とする

内需型の重厚長大産業に活路

株式会社 伊藤技研

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画像:特定の得意先を持たず、ニッチな分野を得意とするガスタービン吸入空気を清浄化するフィルターハウス

「周りで支えてくれた人のおかげで今がある」

画像:特定の得意先を持たず、ニッチな分野を得意とする伊藤幸二専務(左)、伊藤正志会長(中央)、伊藤寿博社長(右)

㈱伊藤技研を創業した伊藤正志会長は、秋田県大館市内の農家の長男として生まれたが、学校を卒業すると同時に旧国鉄に入社。盛岡機関区で車両製造や整備の仕事に従事した。その後、上司が東京芝浦電気(現:東芝)に転職したのを機会に、伊藤会長も誘われ転職した。

ところが24歳になった1965年、父親の急死にともない農家の後継ぎとして帰省することになった。しかし、モノづくりへの想いが断ち切れなかった伊藤会長は農業に従事するかたわら、モノづくりに関連した仕事を考えるようになっていった。前述の上司が東芝を退社後、協力工場の副社長として活躍していたこともあり、相談した。すると「農家なら土地がいっぱいあるだろう。その一角で工場を始めたらどうか。仕事はうちから回してあげる」と後押しを受けた。

33歳になった1974年、一念発起した伊藤会長は作業小屋を改造して機械設備を導入、部品加工の仕事を手がける工場を個人で立ち上げた。そして6年後の1980年に銀行からの借入金で設備類を導入して製造の場を整え、伊藤技研を創業。ファクスやコピー機の部品や医療機器、大型配電盤の仕事を受注するようになった。

ところが売上を思ったほど伸ばすことができず、銀行から借り入れた借金返済が重荷になっていった。月末が来るたびに給料を支払い、借入金の返済をすると手元に残るのはわずかな金額だけで、そんな月日を送るうちに工場を閉めることが頭をよぎるようになった。親しくしていた得意先の工場長に相談すると、伊藤会長の能力を評価していた工場長は「借金は肩代わりするから当社へ入社しなさい」と助言してくれた。

「あのときは『これで資金繰りの苦痛から逃れられる』とホッとし、帰宅しました。しかし、家内に報告すると『あなたはサラリーマンや農家の仕事が性に合わず会社を始めたはず、サラリーマンに戻ったら必ず後悔する。初志貫徹で頑張りましょう』と励ましてくれました。その言葉に奮起し、翌日、工場長に事情を説明すると『それなら頑張れ、応援するから』と言い、カレンダーの裏紙に鉛筆でマス目をたくさん描いてくださった。そして『毎月借金を返済する度にマス目をひとつずつ塗り潰しなさい。黒くなったマス目が増えていけば財産が増えたと思いなさい』と助言して頂いた。借金も返済していけば財産に変わる。見方を変えるだけで目の前がパッと明るくなりました。私は自分のやりたいことを選んでやってきて、なんとか今日があります。その陰には、真摯な助言をしていただいた諸先輩の存在が大きいです。そして、先立った家内の助言もありがたいものでした」と、伊藤会長は創業当時を振り返りながら、自身へ掛けられた恩の重さを回想する。

  • 画像:特定の得意先を持たず、ニッチな分野を得意とする厚板の曲げ加工に対応するHD-3503NT
  • 画像:特定の得意先を持たず、ニッチな分野を得意とするHD-3503NTで曲げ加工した板厚16㎜の製品

内需型の重厚長大産業にシフト

1988年に㈱伊藤技研として法人化。1990年には現在地に工場用地を取得、1991年に二井田第一工場を建設した。

「工場の入り口には門松を2本、敷地の周りに桜の苗木を植樹、苗木が育って桜の花が満開に咲きそろって、社員と花見ができるようになりたいと思いました」(伊藤会長)。

創業当時の苦労が骨身にしみているので、仕事をどう確保するかは深慮した。創業当時は東芝のファクスやコピー機の部品、ゲーム機の部品を受注していたが、量産で数のある仕事はすぐに海外へ生産移転され、受注が不安定になり、かつコスト競争が厳しい。そこで、海外移転のリスクが少ない多品種少量生産の仕事を中心に仕事を探すようになった。

しかし、どんな仕事でも海外移転のリスクはつきまとう。そこでさらに絞り込み、内需関連の重厚長大の大型製品を中心とした仕事の開拓を進めていく。秋田県大館市で事業を営むことを考えると、県外から仕事を持ってこなければ会社を大きくすることは難しい。「様々な業種から仕事をどれだけ持ってこられかが課題」と伊藤会長は考えた。さらに、そうした仕事を受注するためには設備力や技術力が欠かせない。そのためにはヒト・モノ・カネが必要になる。伊藤会長は東芝時代や旧国鉄時代のツテを頼って得意先の開拓に回った。

  • 画像:特定の得意先を持たず、ニッチな分野を得意とする溶接後は門型5面加工機で仕上げ加工を行う
  • 画像:特定の得意先を持たず、ニッチな分野を得意とする艦船向けのガスタービン主発電機排気管。漏洩検査が完了し出荷される

会社情報

会社名
株式会社 伊藤技研
代表取締役
伊藤 寿博
住所
秋田県大館市二井田字上四ノ羽出75‐1
電話
0186-49-0705
設立
1988年(1980年創業)
従業員数
49名
主要事業
製缶・鉄骨加工、板金加工、プレス加工、溶接、レーザ加工、電装組立、焼付塗装
URL
http://www.ito-g.co.jp/

つづきは本誌2017年6月号でご購読下さい。

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