板金論壇

鍛金・ヘラ出しなど、古来の板金加工技術を再認識

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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伊勢神宮の取材

伊勢神宮内宮を取材させていただきました。事前に神宮司庁広報室の許可を得て、撮影場所を厳守するよう指示された以外は比較的自由に取材することができました。

訪れた日はあいにくの雨模様。昨年5月の伊勢志摩サミットで、ホスト役の安倍首相が海外の首脳を迎えた鳥居から宇治橋方向を見ると、靄(もや)がかかって、神秘的な雰囲気が漂っていました。五十鈴川(いすずがわ)を渡り、大御祖神(おおみおやがみ)といわれる天照大御神が奉られる皇大神宮(正宮)までの参道の玉砂利も雨に濡れ、心まで洗われる気持ちになりました。正宮へ向かう途中の神楽殿では、楽師の稽古中なのか笙(しょう)や横笛、箏(そう)や鉦鼓(しょうこ)と思われる音色も聞こえ、よいものが聞けた巡り合わせを悦びました。

そして皇大神宮前の石段にやってくると檜の素木(しらき)で造営された社殿が雨に濡れ、霞んでいました。深遠な木立に鎮まる社殿はとても荘厳でした。

鍛金、ヘラ出しという板金加工のルーツと出会う

今回の取材の目的は、20年に一度行われる式年遷宮で造営される社殿などに使われている、多くの飾り金物や屋根飾りをフォーカスすることでした。

神宮には、社殿に使われる銅板や銅板に金箔を貼ってつくられた飾り金物や屋根飾りの修復を担当し、建物の修理・営作をつかさどる技術者である数名の小工(職人)がいます。彼らは古来からの板金加工技術である「鍛金」や「ヘラ出し」の手法を用い、金槌や木槌を使い、金属を叩いて金物類を修復しています。式年遷宮に際しては、外部の屋根板金職人や、飾り金物の表面にヘラ出しで模様や図柄の装飾を施す彫金職人が製作に携わっています。

ヘラ出しとは、銅板など延性のある金属を熱して「ヘラ」で伸ばし、絵や文字を創り出す彫金技術で、鍛金とともに長い歴史があります。私見では、板金加工のルーツが伊勢神宮には今も残っていると考えており、その足跡を追い、飾り金物や屋根飾りなどを探すことも目的でした。

そんな目的で参拝すると、神宮境内には社殿以外にも手水舎や灯篭など、金物を使ったさまざまな建物があり、これらを日々メンテナンスするのは大変な仕事だと思いました。しかし、それ以上に式年遷宮のたびにつくり直す大変な工数を考えると気が遠くなります。

神宮では遷宮にあたって、新宮の「上棟祭」、「軒付祭」が終わると「甍(いらか)祭」として、衣冠・束帯・直衣(のうし)などの装束に着改めた小工(職人)たちが、金物を打つ儀式を執り行い、代表的な金物が御正殿前に奉安され、小工が金槌で打つ所作をします。その後、社殿の千木・鰹木・甍などには銅板や銅板に金箔を貼った金物が取り付けられます。新宮の屋根は、雨水が漏らないように配慮して銅板を葺(ふ)き、その上に萱を葺くようになっており、ここでも金物類が活躍します。

こうした金物類は、一般の工場で製作されることはなく、大半は施行現場で、金槌・木槌・金床・木鑿(きのみ)・木台・拍子木・打台など、昔ながらの道具を使ってつくられます。その現場を目にしたことはありませんが、古来よりゆかしい装束に着替えた職人の儀式は、心新たに技術や技能を継承する儀式のようにも感じます。神殿には扉飾り・飾り鍵穴・舟形錠・階段金具・儀宝珠(ぎぼし)など、さまざまな飾り金具類が使われており、これらの多くは、ヘラ出しでつくられています。

つづきは本誌2017年5月号でご購読下さい。

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