企業の枠を超えた連携で新たな価値を創造する
企業マインドをしっかり定め、自社のあるべき姿を考える
吉河エレックス 株式会社 代表取締役 吉田 匡輝 氏 (愛知県シートメタル工業会 会長)
吉田匡輝氏
電源トランス設計製造、精密板金設計製造を行う吉河エレックス㈱は、今年で設立から77周年をむかえる。
3代目社長の吉田匡輝氏は学生時代に製造工程のムダを落とした「リーン生産方式」を学び、2016年の社長就任以降は企業内の一連の価値創造活動を連携させた新しい組織モデルとして「リーン企業体」を目指してきた。吉田社長がつくった経営理念は「パートナーズファースト」と「3つのリーンの実現」。3つのリーンとは、LEAN(ムダのない、筋肉質の企業体)、CLEAN(美化を意識した生産、営業、設計活動)、GREEN(環境、法令を意識した製品、人づくり)を意味している。
吉田社長はその理念に基づいて、ムダの見直しや従業員の意見を採り入れた柔軟な対応などの社内改革、顧客との綿密なコミュニケーションなどを積極的に行う一方で、2021年にSDGs宣言、2024年にSBT認証を取得するなど、顧客ニーズや将来性を見越した対応を他社に先駆けて行ってきた。
2025年6月には全国のシートメタル工業会の中で最も会員企業数が多い愛知県シートメタル工業会の会長に就任。愛知県には人手不足や原材料価格の高騰、グローバル競争の激化、カーボンニュートラルやDXへの対応など業界全体の課題とは別に地域ならではの課題があると吉田社長はいう。
そこで、同社の現状や人材育成、愛知県シートメタル工業会の課題や抱負について、吉田社長に話を聞いた。
2026年に向けて社内改革を実行中
― トランプ関税や円高、中国経済の低迷など懸念事項がいろいろとありますが、現在の業績はいかがでしょうか。
吉田匡輝社長(以下、姓のみ) 今期(2026年3月期)の売上は、トランス事業部が約10億円、板金事業部が約6億円の計16億円程度を予想しています。中国経済の悪化や、トランプ関税などの影響で、前期(2025年3月期)の17億円からマイナスになると見込んでいます。
2026年以降に設備関連の案件が複数動き出すため、現在は“人財”の補充や新規設備の導入、建屋改修、生産性や効率を意識した作業動線および作業者・設備の配置の見直しなど、社内改革を進めている段階です。
板金事業部の得意先は主要なものだけで20社ほど。業種は自動車関係、医療機器関係、電気機器関係、通信機器関係、産業機器、倉庫、物流機器など。ありがたいことにメーカーと直接取引をさせていただく仕事がほとんどです。お客さまと綿密にコミュニケーションを重ねることで、経営面・実務面の双方から、お客さまそれぞれの状況や課題に寄り添った最適なご提案・対応ができることが当社の強みです。
リクルートサイトの「社員インタビュー」のコーナーには、10名以上の従業員によるコメントが掲載されている
曲げ工程。吉田社長は「生産力を上げるためにはまずベンディングマシンを入れて全体の様子を見る」と語っており、ベンディングマシンを積極的に採用している
前向きな気持ちで働いてもらうための待遇改善
― そうした強みを生かすには、加工に対して幅広い知識を持った人材が欠かせません。人材育成において心がけていることはありますか。
吉田 入社段階でものづくりに対してどこまで興味があるのか、各自に話を聞いています。技術はもちろん重要ですが、まずはものづくりや自身が携わる仕事に興味を持ってもらうことが大事です。興味を持つことができればおのずと考えながら作業をするようになってきますし、そこに楽しみを見いだすことができる。そのうえで「できることが増えれば必ず自分に返ってくるから、スキルを高めていってほしい」と伝えています。
当社では「今期の売上は○○億円」といった数字的ノルマは設けていません。しかし、社員の待遇を改善することには力を入れています。それにより「これだけ良い待遇にしてもらっているのだから、それに見合った働きをしなければ」と自発的に思ってくれる社員が多く、そうした意識が社内に広がることで、結果的に業績改善へとつながっています。
もちろんうまく機能しないこともありますし、待遇が上がったことにプレッシャーを感じて辞めてしまう人がいないわけではありません。それでも前向きな気持ちで仕事に向き合える人に育ってほしいとの思いから、待遇改善を進めています。多くの従業員は私の思いを汲んで業務に励んでくれています。
― 具体的な事例があれば教えてください。
吉田 たとえば当社では事務員が生産管理を行っています。これは私が「お客さまに納期遅延の連絡するのは嫌だよね?」と質問したとき、事務員からの「嫌です」という回答を受け、「じゃあ自分で納期管理してみるのはどうかな?」と提案したことからはじまりました。今では彼女たちは自身の判断で生産スケジュールを組み、そのスケジュールに基づいて現場は作業を行っています。毎朝出勤した後に作業着を着て当日出荷する製品の状況を確認してから事務所へ行く、仕事の状況次第では残業してスケジュールを組むなど自発的に行動してくれる彼女たちにはたいへん感謝しています。
そうした先輩たちの仕事ぶりを見て、新入社員も同じように作業するようになりました。人材育成は環境や教え方・伝え方によるところも大きいので、そういう意味では良い環境(仕事のやりがい)ができ上がってきていると感じます。
2019年に導入した同社で初めてのベンディングロボットシステムEG-6013AR。導入効果が非常に大きかったことが今回のCR-010Bの導入に結び付いた
スタッド溶接、スポット溶接が並ぶ溶接工程
会社情報
- 会社名
- 吉河エレックス 株式会社
- 代表取締役
- 吉田 匡輝
- 本社・名古屋工場
- 愛知県名古屋市熱田区沢上2-9-26
- 日進工場
- 愛知県日進市浅田町上納56
- 名西工場
- 愛知県清須市清洲4-10-1
- 電話
- 052-681-6611(本社)
- 設立
- 1948年(1945年創業)
- 従業員数
- 72名(有期雇用、派遣を含む)
- 主要事業
- 各種乾式トランス(1VA~50KVA)、ACリアクトル、DCリアクトル、特殊トランス(WB、Rコアートランス、ケース入トランスほか)、各種板金加工品、各種プレス加工品、各種金型製作、組立作業
つづきは本誌2025年9月号でご購読下さい。
- 当サイトで購入
- Amazonで購入
- Fujisanで購入