変化の兆しを見過ごすな ― オフィス家具業界に学ぶ
日本経済がゆるやかに回復する中で、東京都内を中心に全国主要都市でオフィス需要が増加。東京(千代田・中央・港・新宿・渋谷の都心5区)ではオフィス空室率が5%以下となるなど大幅に低下しており、賃料も上昇に転じている。その他の主要都市でも札幌を除いて需要面積が2年連続増加するなど、各都市とも需要の強さが鮮明になっている。
東京では就業者数の増加が続いていることに加え、企業の東京都心5区への移転、自社ビルから賃貸オフィスへの移転の活発化など、1年前に予想していた以上にオフィス需要が拡大している。
総務省が公表した「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(令和7年1月1日段階)によると、東京は2024年も転入者が増え、人口増が続いている。2020年には新型コロナウイルス感染拡大の影響で全国の就業者数は前年比マイナスに転じ、2021年も低位で推移した。しかし、東京ではこの間も就業者数が増加、コロナ禍がピークアウトした2022年以降も一貫して増加している。
さらに、人手不足を背景としたリクルート対策や、社員満足度の向上、アフターコロナの働き方改革に対応してオフィス環境を整備する動きが活発になったことから、自社ビルを売却して賃貸オフィスに移転する事例が増えていることも影響している。加えてスタートアップの成長やITセクターの拡大もオフィス需要拡大の要因として挙げられる。
好調なオフィス需要を背景に、板金関連業界ではオフィス家具業界向けの業績が好調だ。特にコクヨ、イトーキ、オカムラ、内田洋行、プラスなどのファニチャー事業は前年比で2ケタちかい伸びを示している。7~8月に決算発表を行ったコクヨ、イトーキともに好決算だった。また、オカムラの2026年3月期の業績予想(連結)でも営業利益270億円と2ケタ増を見込み、1~3月の売上高・営業利益は四半期ベースで過去最高となっている。
こうしたメーカーの仕事を受注する板金サプライヤーの中には2ケタ以上の売上増となっている企業もある。
オフィス家具としては、感染防止対策としてオフィス内の間仕切りとなるパーテーションやパネル、さまざまな働き方に対応するオフィスチェア、コンパクトデスク、ラックなどの売上が増えている。
2020年のコロナ禍では在宅勤務が増え、オフィス面積の縮小・働き方の多様化により、従来の固定型の机・椅子が並ぶ定型的なオフィス家具の需要が減少し、業績が落ち込んだ。その一方で、テレワークの拡大、ネットワーク対応や働き方改革などで、オフィスは人と人の情報やアイデアを交換する「交流の場所」という認識が広がり、多目的スペースが設けられるようになった。
こうしたオフィス環境の変化は、オフィス家具メーカーにとって大きなビジネスチャンスとなった。固定型の机・椅子からフリーアドレスや可動式家具、単機能家具から多機能で複数用途に対応する家具へ、機能優先からデザイン性・快適性重視へと変わっていった。
オフィスビルの更新サイクル、働き方改革・社員満足度の改善、人的資本経営など、複合的要因による好調なオフィス需要、オフィスのリニューアル需要は「一過性」ではなく、少なくとも今後2~3年程度は好調が持続するとみられている。板金需要の視点からも、こうした市場の変化を見過ごすことなく、チャンスととらえることが必要だ。変化の兆しを見逃すことがない、視野の広さが経営者に求められている。