第36回 優秀板金製品技能フェア 優秀作品紹介(その2)
随所に工夫を凝らしたシンプルな構造で「傘」のスムーズな開閉動作を再現
「和傘」が「審査委員会特別賞」を受賞
株式会社 アルカディア
板金加工だけで「傘」の機構を再現
「第36回優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)の「組立品の部」に出品した㈱アルカディアの「和傘」が「審査委員会特別賞」を受賞した。
市販の部品を使用することなく、ほぼすべての部品を板金加工で製作し、傘の機構を再現。「主軸」を中心に、9本の「枝骨」と18本の「親骨」、18枚の「生地」が均等な放射状に組み上げられ、スムーズな開閉動作を実現した。
「主軸」は六角形とすることで回転(ねじれ)方向の負荷を防ぎ、全体の形状を安定させた。閉じるときは、「開閉スライダー」を「主軸」に沿って手前に引くと、連動する「枝骨」に引き寄せられ、「親骨」を支点に「生地」がたたみ込まれる。
18枚の「生地」は、サイドの突起をカール形状に曲げ、そこに「親骨」の丸棒を通して連結している。閉じるときに内側に引き込まれる“谷折り”部分は内側から外側へのカール曲げ、外側に残る“山折り”部分は外側から内側へのカール曲げとし、方向性をつけることで引っかかりのないなめらかな開閉動作が可能になった。
和傘らしさを演出する大きめの「主軸頭」には9本のスリットが入っており、“山折り”にたたまれる「親骨」9本がスリットに沿ってスライドすることで形状をキープしたまま開閉を行える。「主軸」は2カ所に切り込みが入っており、「開閉スライダー」に組み込まれた止め金具をスライドさせることで開閉ロックをかけることができる。
随所に工夫を凝らし、動かしやすいシンプルな構造を追求した。全体的に“あそび”を大きく取りながらも、「和傘」の見栄えと形状の安定感が損なわれない絶妙なバランスを保っている。表面は、さびの防止と質感を出すために無電解ニッケルめっきで仕上げた。
「実際に使用できそう」(審査委員)な機構・構造のアイデアと、それを実現する技術・技能が融合した作品として評価された。
設計・精密板金・組立配線の一貫生産が強み
アルカディアは、開発設計・制御・精密板金・組立配線に自社内で一貫対応できる強みを生かし、発展を続けてきた。
創業者である松井利光会長は電気・電子分野の技術者で、前職では地元企業でプリント基板のアートワーク設計を担当した。1983年にアルカディアを創業した当初は電気設計と組立配線を手がけ、1990年に精密板金工場を開設してケーシングなどに用いる板金部品を内製化した。
それ以降は設計から組立配線までの一貫生産を特徴としつつ、精密板金加工への設備投資を意欲的に行い、事業を拡大していった。
得意先は約130社。主要5社からの売上が全体の60%を占め、それ以外の得意先からの売上が積み重なって残り40%を構成する「ロングテール型」のビジネスモデルとなっている。
主要得意先5社は、映像音響用設備メーカーと産業機械メーカーに大きく分けられる。
映像音響用設備メーカーの得意先はいずれも東京の企業で、同社の強みである設計・精密板金・組立配線を一式で請け負っている。主な製品は、官公庁の施設などに設置されるICTシステム・映像音響システムなどで用いる接続パネルや制御パネルだ。
産業機械メーカーの得意先は、いずれも地元・長野の企業。板金部品の受託加工がメインだが、制御盤や一部ユニットは組立配線まで手がけている。
会社情報
- 会社名
- 株式会社 アルカディア
- 代表取締役社長
- 春原 直樹
- 所在地
- 長野県上田市小泉2566-1
- 電話
- 0268-25-0034
- 設立
- 1983年
- 従業員数
- 32名
- 主要事業
- 精密板金部品の開発・設計・製造、電子機器・制御機器の設計・製造
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