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板金業界でも「ZEB」への意識が芽生える

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最近うかがったお客さま数社は、自家消費型の太陽光発電システムを工場屋根に設置していました。発電能力はいずれも150kW以上で、工場使用電力の40%をまかなえる大型の設備でした。

政府は「2030年までに新築建築物の平均でZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を目指す」という目標を掲げています。「ZEB」とは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の1次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建築物のことです。

これはあくまで新築のビルが前提ですが、SDGsへの対応を含め、中小企業でも事務所や工場などの1次エネルギーの収支をできる限りゼロにしようとする取り組みが始まっています。使う分のエネルギーをみずからつくるため、自家消費型の太陽光発電所を設置する企業も増え始めています。

しかし、生産設備の使用電力量は膨大で、そのすべてをまかなおうとすると500kWクラスの太陽光発電設備が必要です。これだけの規模を工場屋根に設置するのは難しく、中には工場敷地内に460kWの太陽光発電設備を設置している企業もありますが、導入例はごくわずか。現実的な判断で、工場全体の使用電力量の1/2程度をまかなえる太陽光発電設備を検討する企業が多いようです。

工場が稼働していない土日に発電した余剰電力は、電力会社に売電するか、垂れ流しにするか、蓄電池にためて使うことになります。ZEBやBCPの観点に立てば、余剰電力は蓄電池などにためて、必要な時に使える「つくる・ためる・つかう」のサイクルを構築することが必要ですが、現状では蓄電池の導入コストが高く、躊躇される企業が大半です。

発電能力200kWクラスの太陽光発電パネル、蓄電池、パワコンなどをパックで導入すると、工場屋根の補強工事などを含め1億円を超える場合もあります。中小企業経営強化税制により「自家消費型」と「自家消費率50%以上の余剰売電型」にのみ適用される「即時償却」あるいは「取得価格の最大10%の税額控除」という優遇措置を使っても、かなりの負担額となります。

令和4年度予算に盛り込まれた経済産業省の「需要家主導による太陽光発電導入促進補助金」、あるいは太陽光発電設備と蓄電池がセットになった環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」などを活用する方法も考えられます。

最近は、EVに使われていた使用済みバッテリーを再利用することで、蓄電池の導入コストとランニングコストを低減できる産業用蓄電池などが開発・販売されています。これは、新品のバッテリーを使用した産業用蓄電池と比較して導入コストを約30%低減でき、冷却機器をエアコンからファンに変更することでランニングコストを約90%低減できます。

補助金や、こうした蓄電池を活用することで、自家消費型太陽光発電設備の導入が板金業界でも増えることが見込まれます。

化石燃料の高騰で、電気料金は2年前と比べて30%あまり上昇しました。自然災害にともなう停電に備えるというBCPの観点からも、自家消費型太陽光発電設備の導入が増えていくことはまちがいありません。

すでに導入している企業の経営者からは「電気料金の値上げ分を吸収できるうえ、BCP対応やCO2排出削減にも貢献でき、『SDGs宣言』もできました。お客さまのグリーン調達にもCO2排出量調査にも前向きな回答ができました。太陽光発電設備も20年償却で考えるとメリットは大きい」との声も聞かれます。省エネへの対応、ZEBへの取り組みなど経営者の意識が大きく変わってきました。

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