「デジタル」と「グリーン」 ― 成長市場に対応する板金加工
世界のEV充電インフラ市場は急速に拡大
日本は課題山積 ― EVシフトの成否は不透明
株式会社 日本電動化研究所 代表取締役 和田 憲一郎 氏
世界各国が「カーボンニュートラル」実現に向け、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売を規制する動きが加速している。日本でも乗用車については、2035年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止することを決め、自動車メーカー各社は「電動化」の方針見直しや計画前倒しを相次いで発表している。政府は、6月に発表した「骨太方針2021」で電気自動車(EV)普及のカギとなるEV充電インフラについて、2030年までに急速充電器3万基、普通充電器12万基を設置する目標を掲げている。
自動車の電動化の状況、板金需要の拡大が期待されるEV充電インフラの動向について、㈱日本電動化研究所・和田憲一郎社長に話を聞いた。
2030年までに急速3万基・普通12万基
― ゼンリンによると国内のEV充電器設置数(2020年3月末時点)は普通充電器2万1,340基、急速充電器7,893基の計2万9,233基(図1)。これに対して政府は、2030年までに急速充電器3万基、普通充電器12万基を設置する目標を掲げました。少なすぎる印象ですが、どう受け止めていますか。
和田憲一郎社長(以下、姓のみ) 控えめですが、現実的な目標だと思います。EVシフトが本格化するのであれば、急速充電器だけで20万~30万基は必要でしょう。しかし日本の場合、主にバッテリーの調達がネックになり、他国のようにEVの販売台数が伸びていくとは思えません。また、充電インフラの普及を促す政策は設置に係る補助金だけで、他国のように政府が主導して充電インフラを設置するプランはなく、急速な市場拡大は難しいと思います。
中国は「第14次五カ年計画」(2021-2025年)で、5G通信網やEV充電設備などの次世代インフラに170兆円を投じるとしています。米国・バイデン政権は、2030年までに充電ステーション50万カ所(普通充電+急速充電)を設置する政策を議会に提案。欧州委員会は、2030年までに300万カ所の充電スタンド(普通充電+急速充電)の設置を目標とすることを求めています。
EV充電インフラのタイプ
― EV充電インフラの種類について、教えてください。
和田 EVへの充電方法(バッテリー交換含む)は①「ワイヤード」(有線)、②「ワイヤレス」(無線)、③「バッテリー交換」の3つがあります。
①「ワイヤード」は「普通充電」と「急速充電」、②「ワイヤレス」は「ワイヤレス給電」と「走行中ワイヤレス給電」、③「バッテリー交換」は「乗用車」と「トラック」にそれぞれ分けられます(図2)。
「ワイヤード」は現在の主流です。「ワイヤレス給電」の普及は2022年から、「走行中ワイヤレス給電」は早くても2035~2040年といわれています。「バッテリー交換」は中国の自動車メーカーが採用するケースが増えています。
― 「急速充電」の規格には、どのようなものがありますか。
和田 現在普及しているEV急速充電の規格は5つあります(図3)。日本がつくった世界初の規格「CHAdeMO(チャデモ)」、CHAdeMOにきわめて類似した中国の「GB/T」、米国の「CCS1」(Combo1)、欧州の「CCS2」(Combo2)の4つは、国際電気標準会議(IEC)に準拠しています。これとは別に、米国自動車技術者協会(SAE)に準拠したテスラ独自の「Super Charger」があります。
日本生まれのCHAdeMOを採用したEV充電器の設置台数は、世界全体で3万6,500基(2020年末時点)。最も多いのは欧州の1万6,100基。日本は7,700基、北米が6,000基となっています。
― 日本の場合、急速充電器はどういった場所に設置されているのでしょうか。
和田 充電インフラの整備・運営を手がけるe-Mobility Powerによると、急速充電器の設置場所は「ディーラー」が40%以上を占め、最多です。ディーラーは、ほかのメーカーのEVに乗っている人は使いにくい。やはり高速道路のSAやコンビニ、道の駅といったパブリックな空間で設置が進まないと利便性は良くならないと思います。
プロフィール
- 和田 憲一郎(わだ・けんいちろう)
1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発責任者として「i-MiEV」の開発に着手。2009年にi-MiEV発売後、EV充電インフラビジネスを牽引。2013年3月退社し、㈱日本電動化研究所を設立。モビリティー・エネルギー、家づくり・街づくりをつなぐビジネスの「水先案内人」として各種アドバイザリー業務を行っている
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