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きびしさを増す財政経済事情

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9月末、自民党総裁任期満了にともない自民党総裁選が行われ、安倍晋三首相が石破茂元幹事長を破り、連続3選を果たした。

安倍首相は自民党国会議員の80%、一般党員の55%の支持を得たわけだが、石破元幹事長の一般党員からの得票数は当初の予測を上まわった。マスコミ各社の報道でも分析されているように、アベノミクス効果が地方や中小企業にまでいきわたっていないという批判や、政治家としての信頼感を損ねる事案に対する批判票が、石破元幹事長に集まったとの見方が多い。

安倍首相はこの選挙結果から「一つひとつ丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない」といった趣旨の発言をしている。今回の選挙結果は、経済界からは好感を持って受け止められているが、アベノミクス効果に疑問を持つ経営者やエコノミストが増えているのも事実だ。

日銀の黒田総裁は2013年4月、デフレから脱却するため「2%というインフレ目標を2年以内に達成する」ことを目標に「異次元緩和」を発表。デフレ脱却に向けた「量的金融緩和」の実施にともない、年間80兆円を目処に民間銀行などからの国債の買い入れを始めた。しかし、発表して5年以上が経過した今もなお達成は見通せない。

その一方で、毎年80兆円にもおよぶ買いオペを実施して国債を大量購入、3月末時点の国債保有残高は416.4兆円にもおよんでいる。買いオペで市中に資金が出回った結果として、銀行の貸出金利はさらに下落、異常な低金利によって金融機関は利ざやを稼げず、経営が苦しくなり、地銀の半数が赤字になっている。

そこで日銀は、昨年あたりから年間80兆円の国債買い入れペースを“目処”として定めてはいるが、現実には年60兆円程度にとどめ、今年は40兆円程度にとどめるともいわれている。金融緩和政策にも限界がきており、市中にあふれた資金で経済は活発に動いているものの、実体経済を反映しているとはいえない。

その一方で、企業は目先の好業績から得た利益を内部留保として溜め込んでおり、資金の回転が円滑ではないという批判がある。こうした動きに政府も「生産性革命」を掲げ、一括償却など税制面の優遇措置も発動して、設備投資を後押しする手立てを打ち始めた。こうした効果で民間の設備投資は上向いてきており、マネーサプライも順調になりつつある。

2019年度予算の概算要求が各省庁で固まってきているが、総額は過去最高だった2016年度の102.4兆円を上まわることは確実。その結果、法人税を中心に税収が伸びているといっても予算額の1/3は国債に頼らざるを得ず、国債の発行残高も増え続けることになる。2019年10月からの2%の消費増税を前に財政状況はきびしさを増している。

一般会計において、歳入総額から国債などの発行による収入を差し引いた金額と、歳出総額から国債費などを差し引いた金額のバランス―プライマリーバランスを2020年に黒字化することを、我が国は2010年のG20で国際公約している。このままでは公約すら守られないという可能性も出てきている。

安倍政権になってからの我が国の財政経済事情はきびしさを増しており、目先の景気を第一優先にするのか、孫子の代までを考えた長期ビジョンで考えるのか、大きな選択を迫られている。

安倍政権は消費増税を含め、これからきびしい選択を迫られることが想定される。そのときにも、丁寧な説明で国民を納得させることができるのか、政治家としての信頼が問われている。

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