「グローバル化」と「国際化」のちがい
『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫
ある経営者に学ぶ
「目標なくして計画なし、計画なくして行動なし、行動なくして成果なし、成果なくして成長なし」―過日お伺いした企業の応接室に、このように書かれた書額が大きく掲げられていた。幕末の志士たちの拠り所となった吉田松陰の「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」という言葉をもとに社是として作成されたものだと思われる。こうした処世訓、人生訓を先達の言葉に求める企業は多い。
この企業は社長以下の幹部8名、社員19名が、額に掲げられていたことを実践されていた。社長をはじめとする経営幹部、全社員が毎年達成する目標を掲げ、計画を立てて行動、成果を出し、社員それぞれが成長していくことを目指している。それをサポートする一環として、経営幹部8名は、4名ずつの2班に分かれる。当番日を定めて幹部社員はそれぞれ勤務時間の20%を現場視察に充てる。そして、作業者の仕事ぶりを観察、ムダと思われる作業や段取りを見つけると、そのことを問題として共有、改善を指導することがミッションになっている。
そして、問題となった作業者の改善前の動作、改善後の成果をレポートにして社長に提出することになっている。
社長は歴史上の人物、トヨタ生産方式や著名な企業経営者の経営論、自伝などの著作を乱読。これぞと思う記述に出会うとメモをとって咀嚼し、ご自身の経営に採り入れている。そして社員に対しては作家・山本有三の「路傍の石」の一節である次の言葉を与えている。「はたらくということ“はた”(傍)(周囲)を“らく”(楽)させることだ」―この発想も多くの書を読み、心に残った言葉を書き留め、実践してきた社長ならではの含蓄ある言葉だ。
外国人実習生のいない工場
そしてこの企業が際立っているのが、社内で作業するのはすべて日本人で、最近はどこの工場にも見られる外国人実習生の姿がまったくみられないことだ。
「たしかに外国人実習生は労働コストも安いし、単純作業もいとわずやってくれる。人手不足の時代には喉から手が出るほど欲しい労働力と思ったこともあります。しかし、彼らは3年経てば帰国してしまうので、せっかく教えた技能が継承されない。いつまでもそうしたことを繰り返していると、いつの間にか企業が持っている固有技術の継承ができなくなってしまう、という危機感を抱くようになりました」。
「ヒトを使うよりも、機械化・ロボット化を進め、ヒトはヒトらしい部分で活躍する。そして日本人でがんばれるところは徹底してがんばることが必要。ムリ―能力以上の使い方をしていないか。作業が一定でなくばらついていないか。動作、加工、作りすぎ、手待ち、運搬、在庫、不良、手直しのムダ、手戻りのムダを省く。これらへの気づきをもとに努力を積み重ねることで、日本人だけで対応することは可能です。ムリ・ムラ・ムダをなくす活動をすることで、日本人だけでもやっていけます」と話されていたのも印象的だった。
決して外国人労働者を差別したり軽視したりしているのではなく、自社の技術力・モノづくり精神の継続を祈念しての経営手法であろう。
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