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2016年の処世訓 ― 焦らず、慌てず、騒がず、動じず

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2016年、今年の干支は申(さる)。申は「病が去る」「悪いことが去る」などとして縁起のよい干支といわれる。

過日、業界関係者とお話をしていると「来年は景気も下振れして厳しくなりそうだ。ひたすら本業に専念し、焦らず、慌てず、騒がず、動じずを旨とする」という ― その言葉は的を射ている部分もある。

OECDは先ごろ「新興国経済の急激な減速が、世界的な活動や貿易の重石(おもし)となっている」と指摘。新興国で商品価格の下落や潜在成長率の低下、金融市場の脆弱性などの課題が増大し、「世界的な不確実性の主要な源になっている」と総括した。2016年の世界経済の成長率予測を3.3%に下方修正するとともに、日本の成長率予測に関しては、2015年は0.1ポイント引き下げて0.6%、2016年は0.4ポイント引き下げて1.0%とした。日本は「アジア諸国のさらなる減速に対し脆弱で、輸出と鉱工業生産が下振れるおそれがある」と指摘。「持続的な経済成長のためには、物価上昇、賃金上昇、企業収益の好循環が必要」と提唱している。

3年前に第2次安倍内閣がスタートし、デフレからの脱却をめざす景気の好循環を実現するために、「3本の矢」 ― 大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略 ― からなるアベノミクスを発表した。しかし、2014年4月の消費増税が日本経済に与えた影響が大きく、円高や株安からの脱却は実現できたものの、個人消費が思った以上に改善することなく、2%以上の物価上昇の実現は難しくなった。民間投資も「設備投資促進税制」や「ものづくり補助金」、「省エネ補助金」などの真水効果によって支えられている部分が大きく、成長戦略も十分に浸透しているわけではない。企業業績は回復しているものの、賃金上昇による個人消費の拡大にはつながっていない。過去の痛い経験から、消費者は手堅く貯蓄に励む。

そんな中で第3次安倍内閣は経済成長の推進力として、「新3本の矢」―希望を生み出す強い経済、夢を紡ぐ子育て支援、安心につながる社会保障 ― を掲げた。具体的な数値目標として、2020年に名目GDPを現在の約490兆円から600兆円に、出生率を現状の1.4を1.8に回復させ、介護離職をゼロにすることを発表した。しかし、これらによって個人消費が拡大し、景気の好循環が実現できるかは未知数だ。

また、TPP交渉の妥結を受けて、国際競争力が弱いといわれる農業分野では、ウルグアイラウンドの時と同じように、政府に対して補助金による支援を要請し始めている。平成28年度予算の概算要求では需要を促進するための各種補助金が大掛かりに組み込まれている。参議院選挙対策もあるのだろうが、政権与党は「地方創生」という名目で、選挙に勝つためのバラマキを考えているかに見える。なのに政権が掲げる民間投資による成長戦略の姿は見えてこない。

そんな状況では、いたずらに動き回るよりも「見ざる、言わざる、聞かざる」で「焦らず、慌てず、騒がず」が肝要、という考えも一部は頷ける。しかし、今まさにそこにある危機を「見ざる、言わざる、聞かざる」で過ごしてしまっては、将来に禍根を残す結果となる。

2016年は「焦らず、慌てず、騒がず、動じず」を旨としながらも、見なければいけないもの、言わなければいけないこと、耳を傾けなければいけないことに関しては、しっかりと向き合う姿勢が必要だと思います。

第3次安倍内閣の掲げる政策が「猿芝居」に終ることのないように、政府も民間活力を生かした成長戦略に力を注いでほしい。来る者は拒まず、泰然として自身の中で咀嚼できる体力を培ってほしい。

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