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不確実性が増し、経営者の「判断」が問われる

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2月24日から始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は日本経済にも大きな影響を与えつつある。新型コロナの感染拡大「第6波」のピークアウトを受けて、さまざまな社会経済活動の制限が緩和され、大企業や中小企業の景況感は良好で、ゆるやかな回復が見込まれていたが、ウクライナ侵攻以降、状況は一変した。

日銀短観の3月調査では、大企業製造業の業況判断指数(DI)が+14、中小企業製造業が△4となり、いずれも2021年12月調査から3ポイント悪化した。悪化は2020年6月調査以来、7期ぶり。先行き業況判断DIも、大企業製造業が+9、中小企業製造業が△5で、さらなる悪化が見込まれている。ロシアへの経済制裁が発表された2月末以降、エネルギー・金属・農産物の価格高騰に拍車がかかり、家計・企業のマインドが悪化している。さらに、地政学的リスクの高まりもあって、先行きへの警戒感が強まっている。

三菱総合研究所が3月に発表した「ロシアのウクライナ侵攻による世界・日本経済への影響」では、世界全体の2022年の実質GDP成長率予測をウクライナ侵攻前の3.5%から3.0%に引き下げた。また、日本の成長率予測も2.5%から2.1%に引き下げ、「価格転嫁が十分にできないなかでの、エネルギー価格の上昇は企業業績の悪化につながる。製造業(素材)や電気・ガス・水道等のほか、宿泊・飲食、運輸・郵便などコロナ危機の影響が大きかった業種で、エネルギー価格上昇の影響が大きい」とした。

2月24日以降にお会いした経営者の多くは、「仕事はまだ忙しく、内示段階での落ち込みも少ない。しかし、半導体をはじめとした部材不足により、お客さまから納品を一時的に止められるケースもある」と話されていた。

弾道ミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮や、海洋進出を強めている中国を念頭に、核の脅威や軍事力による暴挙が起こりかねないという不安も高まっている。そうした不安から設備投資を躊躇する企業も見られるようになった。

これからは石油・天然ガスなどのエネルギー価格や、鉄鉱石などの原材料価格の高騰が危惧されることから、価格転嫁への対応を早めに行う企業もある。発注元はこれまでのところ、タイムラグはあるものの価格転嫁を容認する企業が多いが、原材料価格の高騰が加速すれば、従来以上のコストダウン要請は必至で、その対応も課題となる。

また、まん延防止等重点措置が全国でいっせいに解除され、人の流れが増えたことで、感染力が強い「オミクロン株BA.2系統」によるリバウンドが起き、早々に「第7波」がはじまるのでないかといった懸念もあり、経営環境の不確実性が高まっている。

こうした中、自社の立ち位置を明確にすることで、「お客さまから選ばれるのではなく、自分たちがお客さまを選別していかなければならない」という発想を持った経営者が少しずつ増えている。

ある経営者は「コストダウン要請だけをやみくもに押し付けてくるお客さまは相変わらず多い。不確実性が増している今だからこそ、『三人寄れば文殊の知恵』ではないが、お客さまとわれわれ協力企業が対等のパートナーとして、一緒になって良いもの、売れるものを安くつくる努力をしなければいけないはずだ。それなのに、いまだに『協力会社に仕事を出してあげている』というスタンスのお客さまは多い」という。

情報交換を密にして知恵を出し合い、努力は双方でするものという認識を持たねばならない。不確実性が高まっているときだからこそ、経営者の「判断」が問われている。

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