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「六方よし」の第一歩は、「従業員満足度向上」

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書店で新刊書棚を眺めていたところ、「六方よし経営」(藻谷ゆかり著 ※もたにゆかり)というタイトルが目にとまりました。

近江商人の「三方よし」 ― 「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」は聞き慣れており、それを実践する経営者には何人もお会いしていたので、「六方よし」とは何かと思い、手に取りました。同書では従来の「三方よし」に「作り手よし」「地球よし」「未来よし」を加えた「六方よしの経営」を紹介していて、もっともな内容と感じ、早速買い求めました。

私が「三方よし」という言葉に出会ったのは30年以上も前、近江商人が生まれた滋賀県の企業で経営指針としてうかがったのが最初でした。それ以来、自分の利益追求だけにとどまらず、社会貢献を目指す経営は、社会の一員である企業にとって、欠かせない絶対的な指針と考えるようになりました。その後、近江地域以外の経営者からも何度となく「三方よし」の言葉を聞き、そのたびに、この言葉の持つ意味の深さと、それを経営指針として採用した経営者の聡明さに感じ入りました。

しかし、こうした企業の多くは「顧客満足度向上」を企業理念の第一に掲げており、社会貢献すなわち顧客満足度向上を重視するあまり、従業員に対しては品質・納期・顧客サービスといった面で過度な要求をしていることもあったように思います。

近年は、「従業員満足度向上」を第一に掲げる企業が増えてきました。従業員満足度を向上させ、従業員が「働きがい」や「働く喜び」を持つようになれば、生産性や仕事の質が高まり、結果として顧客満足度も向上する ― そうした考えから従業員満足度の向上に力を入れる企業が増えてきました。「作り手よし」という言葉は、こうした考え方を端的に示していると思います。

「カーボンニュートラル」が叫ばれるようになった現在は、環境負荷低減に貢献することが企業に求められるようになってきました。「SDGs」の目標12「つくる責任、使う責任」として明確にされ、企業の貢献が持続可能な未来につながるという認識につながっています。

そんなことを昨年あたりから考えるようになっていたので、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」に「作り手よし」「地球よし」「未来よし」を加えて「六方よし」とする著者の主張はよく理解できました。同書では、「六方よし」はこれからの企業に求められる先進的な経営手法であるとする一方、メディアへのPRや従業員のモチベーションアップ、採用活動にも効果があるとしていました。

経済・社会・環境の持続的な発展が求められえている現在では「六方よし」という考えを強く認識する必要があると感じました。それと同時に、こうした理念を浸透させるためには、何を置いても「作り手よし」の基本である「従業員満足度向上」に真っ先に取り組まなければならないと改めて感じました。

ただ、このコロナ禍においては、経営者の努力だけでは防ぎきれない離職者も現れてきています。大都市の企業に就職したものの地方に配置され、県をまたいでの往来を禁止されているため、実家の家族や学生時代の友人に2年ちかく会えず、鬱屈した気持ちが離職に向いてしまうケースもあると聞いています。

「従業員満足度向上」は、給料や休日などの労働条件のほかに、仕事に対するやりがい、上司や同僚とのコミュニケーション、会社への愛着などが大きな要素となっていることを理解しなければいけません。従業員がモチベーションを高く保ちながら業務に対応することができれば「六方よし」の第一のハードルがクリアでき、それが企業の価値や魅力、将来性を見極める際の基準になるのではないでしょうか。それだけに「作り手」である「従業員満足度向上」が、企業経営者にとってますます大切になっていると思いました。

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