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技術のブランディングで買い手市場を“売り手市場”に

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毎回同じような内容になるが、経営者の意識が随分アグレッシブになっている。

得意先の業績に影響されないためにも得意先分野を拡げ、1社あたりの売上比率を低減してリスクヘッジを行う。それとともに、自社の特長を明確にし、Webサイトに「板金ガイド」などの特設ページを設けて、自社が保有する得意技術・設備で何ができるのか、具体的に発信するようになってきた。さらに、異業種交流会や同業者との交流を通じて、得意技術を活かしたWin-Winの関係を構築、お互いの強みを活かしたモノづくり・製品づくりを試みるようになっている。そして、活動の成果を各地で開催される公共展に出展、アピールする行動につなげている。

小誌では板金加工と関わりがある様々な公共展を取材しているが、年を追うごとに板金加工企業の出展が増えていることに嬉しい驚きを感じている。

2月上旬にパシフィコ横浜で開催された「テクニカルショウヨコハマ2017」には40社余り、さいたまスーパーアリーナで開催された「彩の国ビジネスアリーナ2017」では20社余りの板金加工企業が出展していた。いずれも前年を大幅に上回る出展社数だった。

出展者のブースを回って目立つのが、自社で加工した製品を並べて展示するだけではなく、加工技術の観点から特徴的な製品を出展、自社が保有する固有技術によって、従来からのつくり方や仕上がり時間の短縮など、改革の成果をしっかりとアピールしている。来場者――バイヤーの視点で見ると、各出展者がアピールする加工技術がブランドのように見えてくる。

これまでの板金加工企業は、発注元である大手企業の下請け企業として必要とされる加工技術を培い、技能者を育成してきた。そのために発注元から様々な技術指導も受けてきた。このこと自体は技術の研鑽・レベルアップという観点では板金加工企業にとってプラスだったが、その技術が発注元にとって不要になれば発注は止まってしまう。あるいは、発注元のQ,C,Dを満足することができなくなれば転注されてしまう。そのため、買い手市場で加工技術が評価される不遇の時代が長かった。

ところが最近は、買い手市場で自社が保有する加工技術が評価されるのではなく、自社の技術をブランディングすることで企業に対する共感や信頼など、得意先にとっての価値を高め、評価してもらうという形態に変化してきている。例えば一般医療機器の製造に関わる板金加工企業の間では、生体へのリスクが極めて低い一般医療機器に関連する医療機器製造許可の認証を取得する例が増えている。認証そのものが取得企業のブランドとなり、医療機器関連の得意先以外からも仕事を受注する割合が増えるという。同じような理由で、全体として取引量は少ないものの、取得すること自体が会社の評価につながるという判断から、航空宇宙産業の品質管理マネジメントであるJIS Q 9100の認証を取得する加工企業も増えている。

また、ロボット板金、板金ケース、筐体板金、フレーム板金など、自社が得意とする技術で加工する製品を冠した「〇〇.com」といったWebサイトを立ち上げ、ブランディングを行う板金加工企業も増えている。さらに、板金加工ガイドブックなどを発行し、メーカーの設計者などに配布する事例も増加するようになっている。

買い手市場から売り手市場に変わるだけで、ビジネスのやり方は大きく変化していく。今、多くの板金加工企業がこうした活動を通して自社の加工技術のブランディングを強化しはじめている。

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