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「Brexit」に対応して需要を興す成長戦略を

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英国のEU離脱―「Brexit(ブレグジット)」が日本経済にも大きな影響を与えはじめている。

安倍首相はBrexitによる日本企業、日本経済への影響を調べるため経済産業省などに実態調査を指示している。首相は、デフレからの脱却と景気の好循環サイクル実現を目指して推し進めてきた様々な経済対策であるアベノミクスが、これによって灰燼に帰し、リーマンショック後のクライシス状態に逆戻りすることを懸念している。

為替市場は瞬間的に1ドル=100円を割り込み、現在は100~105円台で推移、1年前と比較すると20円の円高である。また、日経平均株価が1万7,000円台に届くほどに改善した株式市場も、1万5,000円台で推移している。EUと英国の離脱交渉の推移も不透明で、EU進出の足掛かりとして英国に進出した日系企業は、欧州戦略の見直しを迫られ、“ヒト・モノ・カネ”の動きがいつ変わるのかを計りかねている。対応の遅れも懸念され、離脱交渉の遅れは世界経済にも大きな影響を与えている。

そんな中で、日本の景気先行指標といわれる工作機械の受注推移をみると、2016年1~6月の受注総額は6,309億9,400万円で、前年同期比22.0%の減少。このまま推移すると2016年通年の受注総額は1兆3,000億円にも届かないことになる。

6月6日には経済産業省が平成27年度補正予算で実施した「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」の採択結果を公表、申請のあった2万4,011件に対して、7,729件を採択したと公表した。「ものづくり補助金」と呼ばれるこの制度を採択するためには、革新的なサービスの創出・サービス提供プロセスの改善によって3~5年間で、「付加価値額」年率3%、および「経常利益」年率1%の向上を達成できる計画であること。または「中小ものづくり高度化法」に基づく特定ものづくり基盤技術を活用した革新的な試作品開発・生産プロセスの改善を行い、生産性を向上させる計画であることが条件となっている。

板金業界でも多くの企業が応募したが、採択率は想定以上に低かった。昨年実施された「省エネ補助金」では工作機械、鍛圧・板金機械の導入に関連した採択率が非常に高かっただけに、「ものづくり補助金」を受注回復のきっかけに、と考えていた機械メーカーにとっては厳しい状況となった。

補助金に対する投資マインドを調べたデータによると、「補助金の有無に関わらず設備投資する」は大企業で51%、中小企業では19.5%。一方、「補助金が受けられるなら投資する」は大企業で22.4%、中小企業では46.8%。また、「補助金の有無に関わらず投資する気がない」が大企業で25.4%、中小企業では33.7%というデータもある。中・長期の経営計画で設備投資を実施する大企業とは異なり、マクロの景気動向に設備投資が左右される中小企業では補助金が投資の呼び水になっていることは間違いない。

反面、補助金の有無に関わらず設備投資するという中小企業が足元でも19.5%あるというのは頼もしい。これはある意味、勝ち組となった企業がますます強くなるために継続的な設備投資を行っていることを裏づけるものともいえる。しかし、設備投資が活発になり、それによって仕事―売上が改善、社員の人件費も上昇、個人消費が拡大することでさらに景気が改善するという、景気の好循環型サイクルがこれによって確立できれば良いが、実態とは程遠いのが現状だ。景気の好循環サイクルをつくり上げるには、仕事を増やすことが一番必要になっている。そのためにも政府には今こそ、中長期の成長戦略策定が緊急の課題となっている。

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