研究室訪問

Ti-Ni形状記憶合金の製造プロセスを覆す、「成形後合金化」という独創的な発想

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 松宮 久 助教

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画像:Ti-Ni形状記憶合金の製造プロセスを覆す、「成形後合金化」という独創的な発想宇宙航空研究開発機構 松宮久助教

宇宙構造物を、もっと軽量化・高信頼化する

宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所・松宮久助教の研究テーマ「大型一体化構造Ti-Ni形状記憶合金の実現を目指したTi/Ni積層圧延材の塑性変形能に関する検討」が、天田財団の2025年度「奨励研究助成(若手研究者)」に、塑性加工分野で採択された。

私たちが直面している地球上の社会課題を解決するには、宇宙科学分野の研究開発が欠かせない。宇宙開発の核となるロケットや人工衛星・探査機のような大型展開構造物には、材料自体が能動的に変形することでいっそうの軽量化と高信頼性を担保できるスマートデバイスが求められている。その中核材料として、Ti-Ni(チタン・ニッケル)形状記憶合金が有望視されている。

この合金材料は加熱されると元のカタチに戻る形状記憶効果を持つ。この特性を生かせば大型展開構造物に用いられてきたばねやヒンジなどを固定する多くの部品が不要になる。結果として、軽量化と高信頼性を同時に実現できる。しかし、ワイヤーの状態で販売されているTi-Ni形状記憶合金は加工硬化が著しく、塑性加工がきわめて困難なため、大型・複雑形状部材の製造は難しい。3次元積層造形という手法も考えられるが、原料の金属合金粉末が高価、かつ製造工程で粉末に酸素の混入を防ぐことが難しい。

画像:Ti-Ni形状記憶合金の製造プロセスを覆す、「成形後合金化」という独創的な発想左:手回しの圧延機/右:Ti-Ni形状記憶合金のミクロ組織の電子顕微鏡画像

シャワー中に、ふとアイデアが浮かんだ

純Ti板と純Ni板を積層して圧延・接合した材料に熱処理を施すと、形状記憶効果を持つ「TiNi(ニチノール)単相組織」が得られることはすでに知られている。ただし、これは合金を板材化するための知見にすぎない。

「ある日、自宅でシャワーを浴びていた時に、“まず加工の容易な積層圧延材の段階で、企業や研究機関が求める形状に成形してしまい、その後に熱処理を施して、材料全体をTi-Ni形状記憶合金へと変化させれば、大型一体化構造の部材を低コストで製造できるのではないか”というアイデアが浮かんだのです」(松宮助教)。

この革新的な製造プロセスを確立するには、Ti/Ni積層圧延材の機械的性質の解明が不可欠だ。そこで、積層されたTiとNiの層厚や、加工が変形特性におよぼす影響など、この圧延材ならではの塑性変形特性を実験的に評価・解明し、その挙動を予測・制御するための設計指針を獲得することが、今回の助成研究のテーマとなっている。

画像:Ti-Ni形状記憶合金の製造プロセスを覆す、「成形後合金化」という独創的な発想JAXAが開発したM-Vロケットの前に立つ松宮助教

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