形状記憶合金における転位の本質的効果を見極め、新たな用途開発に貢献
電気通信大学 情報理工学研究科 篠原 百合 准教授
学祭で見た学生の活躍に衝撃を受け、入学
電気通信大学・篠原百合准教授
電気通信大学 情報理工学研究科の篠原百合准教授の研究テーマ「塑性変形が形状記憶合金のマルテンサイト変態挙動に及ぼす影響の本質的評価」が、天田財団の2024年度「奨励研究助成(若手研究者)」に塑性加工分野で採択された。
篠原准教授は、金属材料の研究者を目指すことになったきっかけを「高校生の時に見学した、東京工業大学(現・東京科学大学)の大学祭でした。大学生がみずから、アルミのパイプを加工して実際に走行できるクルマを自作するというテーマを掲げ、完成したクルマに来場者を乗せて学内を走行するイベントを実施していました。高校の授業とはまったく異なり、ものづくりの方法を自分たちですべて考え、実践するスタイルに衝撃を受けました」と語る。
自分もあのような実験・研究をやってみたいと考え、東京工業大学 金属工学科に入学、形状記憶合金の研究室に所属した。博士課程前期・後期と進学し、博士(工学)を取得。2015年に東京工業大学 精密工学研究所の助教、2016年に同大学 科学技術創成研究院の助教に就任した。また、研究対象を鉄系合金の組織解析にも広げていった。その後、2023年10月に電気通信大学・機械知能システム学専攻の准教授となった。
異なる2つのメカニズムで導入される「転位」を、分けて評価する
今回採択された研究の対象である形状記憶合金は、身近なところではメガネフレームや混合水栓に、医療分野では血管治療に不可欠なステントや歯科矯正ワイヤーなどに利用されている。産業分野では、アクチュエータのような機械装置に用いることで、機構の簡素化と小型化、信頼性の向上が見込める。形状記憶合金は、数%の歪みの範囲内で変形させても、加熱すれば元の形状に戻る性質を持っている。この形状回復は、合金の変形時や加熱時にマルテンサイト変態と呼ばれる結晶構造変化(相変態)が、原子の拡散をともなうことなく起こることに起因する。
形状記憶合金は、長年の使用によって相変態温度が変化する機能劣化が起こる。この機能劣化の主な原因の一つは、「転位」だと考えられている。転位とは、金属材料の内部で原子の配列にズレが生じる線状の欠陥を指す。転位は形状記憶合金の成形プロセスで実施される塑性加工時に導入される。加えて、完成した部品や装置が使用される場面で起こる繰り返しの相変態でも発生する。つまり転位が発生するメカニズムとして、塑性加工にともなう塑性変形時に発生するものと、相変態にともなうものがある。
機能劣化をできるだけ生じさせない合金を設計するには、この2種類の転位の効果をマクロとミクロの観点から区別して評価する必要があるが、詳細を明らかにできていないのが現状だ。理由の一つに、塑性変形による転位の影響を評価するために材料に塑性加工を施すと、加工過程で同時にマルテンサイト変態も生じてしまうことが挙げられる。
篠原准教授が着目したFe-Ni-C合金は、一部の組成で形状記憶効果が発現するが、構造材料の研究に用いられることが主であった。しかし、篠原准教授は形状記憶合金の開発を行った経験から、本合金を用いれば室温ではマルテンサイト変態が生じず、外力により塑性変形のみが生じる状態と、その後に合金を冷却することで、マルテンサイトが形成される状態を、段階的に評価できるとしている。透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による観察を通じて、塑性変形がマルテンサイト変態の発現挙動におよぼす影響を明確化する。
金属材料のミクロスケールの組織解析
試料研磨機
つづきは本誌2026年5月号でご購読下さい。
- 当サイトで購入
- Amazonで購入
- Fujisanで購入


