われわれがともに何を成し得るかを問いかける
「国があなたのために何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国のために何ができるかを問うてほしい」 ― これはJ.F.ケネディ元米大統領が大統領就任演説で述べた有名な言葉だ。私はこの言葉が好きで、視点の記事でも過去に2度ほど取り上げた。しかし、今こそ国民が考えなくてはならないときではないだろうか。
世論調査によると、日本の国民は政府への信頼度が20%台と低い一方で、行政サービスに対して政府に多くの要望や期待を持っている状況がうかがえる。これは政府の政策や対応に対する不信感はあるものの、企業が提供する製品やサービスに対するのと同様に、政府にも高い要求レベルが同時に存在することを意味している。
今回の参議院選挙の結果を見て思うことは、改革に痛みと時間をともなうことを理解しないで、自分たちの要求・要望だけを一方的に要求し、通らなければリーダーの交代を主張する傾向が強まっていることだ。このこととポピュリズムは必ずしも一体ではないものの、自分たちさえ良ければいいといった意識が強いように思う。今回の選挙では消費税の減税・廃止をともなう減税政策、給付金によるばらまきを多くの政党が選挙公約に掲げた。そして20代、30代の若い世代に対し、SNSなどを活用して「日本人ファースト」という政策を訴えた参政党が大きく議席を伸ばした。
しかし、財政赤字が先進国トップの日本が、財源の裏付けのない減税、給付金、公共サービスの無償化を行えば、その財源の多くは赤字国債の発行に頼らざるを得ない。財政赤字が今以上に拡大すれば、国際的信用が失墜し、為替市場では円安が加速する可能性もある。物価対策や低所得者に対する対策の見直しの必要はあるが、人口減少・高齢化が進む日本の将来を考えると、福祉対策を推進する財源として設定されている消費税を廃止することは困難だ。食料品などに対する消費税率を下げることはあると思うが、消費税をなくすという考えにはうなずくことができない。
すでに日本の労働市場は外国人労働者に頼らなければ維持できない状態にある。日本で働く外国人労働者数は2024年10月末段階で、230万2,587人と届け出が義務化された2007年以降、過去最多を更新。前年と比べても12.4%増(25万3,912人増)と大きく増加している。
もちろん、外国人犯罪の増加をはじめとした問題もあるが、国民一人ひとりが今の生活を維持し、質の高い生活・サービスを受けるためには外国人労働者の力を借りなければいけないという現実がある。ものづくりの現場や、いわゆる3Kと言われる作業に従事する日本人は減っており、そうした仕事は外国人労働者に依存しているのが現実だ。そんな彼らに仕事をしてもらうためには、環境整備も行政サービスも必要だ。目の前の問題もさることながら、広い視野に立って考える必要がある。
今必要なことは、国民一人ひとりが国民の権利を主張する前に、一人ひとりが納税の義務も含めて日本のために何ができるのかをしっかりと考えることだと思う。
ケネディ大統領は演説の最後にこんな言葉も残している。
「世界の人々に言いたい。あなた方のために、米国が何をするかを問うなかれ。人類の自由のために、われわれがともに何を成し得るかを問いかけよう」。
世界では「自国第一主義」が蔓延して、力による現状変更が、当たり前になろうとしているからこそ、この言葉を噛み締めたい。