経営者は、夢と希望と勇気を持つことが必要
先日、都心近郊で板金工場を経営される経営者たちと懇談する機会があった。参加された板金工場の規模は小さく、大半は従業員が数名から二十数名までの小規模企業が多かった。しかし、戦前から操業している企業もあり、大半が50年以上の社歴を持たれた板金工場で、経営者も2代目、3代目、中には4代目という方もおられた。
長年にわたり都心近郊で板金加工工場を営まれていることもあり、電気・通信・情報処理機器などの得意先には上場企業も多く、創業当時はプレス加工をメインにしていたが、量産の仕事が海外に移転されるのにともなって、試作板金や補用部品の生産のために板金加工を手がけ始めたという企業もあった。
創業が古いこともあって、自前の土地に狭いながら工場を構えて操業されているが、自動化によって大型化してきている最新の設備は導入できず、設備更新が遅れていることもあって、首都圏に多い「アーバン工場」に導入できる「軽薄短小」な設備を望む声が強かった。
その一方で人手不足や若手人材の確保が難しくなっており、在籍社員の平均年齢が40代後半から50代に手が届きそうというように、高齢化も課題となっている。
さらに経営者の年齢は50代が大半だったものの、これからの事業承継に悩まれている方、後継者難を想定してM&Aを考えるという方もおられた。
そんな方々とお話をしていると、これからの板金工場に未来があるのか、企業を取り巻く環境は直近の「トランプ関税」への対応も含めて、悪くなっても、良くなるという兆しが見えない。中には「板金絶望工場」になっていくのではないか。経営者がそんな状態で、働く社員たちは経営者以上に将来に夢をなくし辞めていくしかなくなっていくのではないか、と発言された方もいた。
経営者のマインドがネガティブになってはいけないのではないか、と月並みな話を向けると、ある経営者がネガティブな発言を繰り返す経営者に対し、「あなたはものづくりがきらいなのか」と尋ねた。するとその経営者は「嫌いではない。中学の頃から工場の手伝いをさせられて、タレパンで加工した製品を集め、パレットに集積する仕事や、材料や金型を持たされて、大変だった。自分も工場で働くようになった頃に、タレパンにマニプレーターが後付けされて自動化が進み、つらかった仕事が徐々に自動化されていくのを見て、ものづくりのおもしろさを感じられるようになった。ものづくりは好きだ」と話された。
それからは集まっていた経営者から一様にものづくりの楽しさが語られ、盛り上がった。この議論を聞かせてもらいながら、取り巻く課題、先の見えない不確実な時代でも、ものづくりが楽しい、好きだと語れる経営者だからこそ、仕事に誇りとやりがいを感じて事業を継続し、経営者を続けておられるということを再認識した。
亡くなられた稲盛和夫氏は「経営12カ条」の中で、「事業の目的・意義を明確にする」「具体的な目標を立てる」「強烈な願望を心に抱く」「誰にも負けない努力をする」「売上を最大限に、経費は最小限に」「値決めは経営」「経営は強い意志で決まる」「燃える闘魂」「勇気をもって事に当たる」「常に創造的な仕事を行う」「思いやりの心で誠実に」「常に明るく前向きで、夢と希望を抱いて素直な心で経営する」を掲げておられる。
経営者は「夢と希望と勇気を持つ」ことが必要だ、ということを忘れてはならない。