Forum

「リスクに備えて持続可能な経営を~BCP(事業継続計画)セミナー」

BCPは「経営環境の変化に対応する取り組み」(前編)

「想定外」の事態へ向けてマネジメントする

H.R.C 堀池 眞臣 氏(BCPアナリスト)

LINEで送る
Pocket

画像:BCPは「経営環境の変化に対応する取り組み」(前編)3つの複合的な要素を反映した「事業継続回復曲線」

ISO27001:ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)から展開した「BCP-HRC(Holistic RISK Controls)モデル」を提唱するBCPの専門家、堀池眞臣氏のセミナー「リスクに備えて持続可能な経営を~BCP(事業継続計画)セミナー」の内容を2回に分けて紹介する。

大規模な自然災害や感染症の発生は、中小製造業の企業経営にも大きく影響する。事業再開が遅れれば資金繰りは悪化し、サプライヤーとしての供給責任を果たせなければ顧客との信頼関係の低下につながり、雇用の維持や事業の継続が困難になって倒産・廃業に至る例も珍しくない。

想定外の自然災害が多発するなか、近年は中小製造業の間でもBCPへの関心が急速に高まっている。BCPとは、企業が大規模な災害や不測の事態に遭遇した場合に、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続、早期復旧を実現するための事業計画のことだ。

堀池氏が提唱する「BCP-HRCモデル」(企業価値を高めるBCP)のポイントは「いかにして想定外をなくせるか」「いかにして現場力を高めることができるか」の2点であり、そのプロセスにより平時の業務改善にもつながるBCPとして注目されている。

以下、セミナーの内容をダイジェストで紹介する。

「リスクに備えて持続可能な経営を」

今回のテーマは「リスクに備えて持続可能な経営を~BCP(事業継続計画)セミナー」。前半では、「BCPとは何か」について、概念や定義、要件を整理する。また、専門家としていろいろな企業のBCP策定指導に関わってきた経験から、「残念なBCPケース」についても解説する。

後半は、私が提唱している「BCP-HRCモデル」(企業価値を高めるBCP)について説明する。また、最後に2019年7月に施行された中小企業のBCP策定を推進する法律「中小企業強靱化法」など、制度面の簡単な解説をする。

想定外の自然災害が多発する日本

地球の陸地全体のうち、日本の国土はわずか0.25%にすぎない。しかし、地球上で発生するマグニチュード6以上の地震のうち、約20%が日本で発生しているといわれている。実に世界で起こる大きな揺れの5回に1回が狭い国土の日本で起きている。普通の国・地域の80倍の発生率だ。日本の狭い国土の中には約2,000もの活断層が確認されているが、実際にはその2倍以上の活断層があるといわれている。さらに活火山は110、原子力発電所は稼働停止中のものを含め56基ある。

画像:BCPは「経営環境の変化に対応する取り組み」(前編)図1:BCPが対象とする「想定外」の災害

こうした環境のなかで、東日本大震災(2011年)を筆頭に、近年は大規模な自然災害が多発している。最大のリスクは地震だが、近年は西日本豪雨(2018年)、令和元年東日本台風(2019年)のような風水害も立て続けに発生している。そして現在は大規模感染症―新型コロナウイルスが猛威を振るっている。

こうした災害が発生するたびに、「想定外」という言葉が流布される(図1)。BCPは、こうした「想定外」の事象に対してマネジメントをする取り組みだ。

BCPサプライチェーンドミノ

2011年に内閣府の中央防災会議が、「南海トラフ巨大地震の巨大地震の被害想定」を発表した。それを受けて、トヨタ自動車は2012年に、グループ企業やサプライヤーへ向けてBCPの大号令をかけている。トヨタ本体はBCPを持っていたが、自社だけがBCPを持っていても不十分で、グループ企業やサプライヤーも自分たちと同じレベルのBCPを持っていないと立ちゆかなくなると考えた。これは、新潟県中越沖地震(2007年)のときに、サプライヤーのピストンリングメーカーが被災して、トヨタ本体のラインが止まった経験があるためだ。

トヨタをはじめ、大手メーカーは自社だけでなく1次サプライヤーへ向けて、1次サプライヤーは2次サプライヤーへ、2次は3次へと、ドミノ式にBCPの評価作業を行っていった。私も評価作業に関わったが、アンケート・モニタリング・調査・監査など、手を替え品を替えて取引先を多角的に評価する作業を行った。

サプライチェーン全体を見直して、ボトルネックはないか、シングルソースになっていないか、地域的な偏りがないか、チェックする。サプライチェーンの“かたち”も見ていて、きれいなピラミッド型になっていることは意外に少なく、ダイヤモンド型で最終的な調達先は1社に集中していることも珍しくない(図2)

画像:BCPは「経営環境の変化に対応する取り組み」(前編)図2:サプライチェーン構造図(イメージ)とリスク評価

プロフィール

堀池 眞臣(ほりいけ・まさおみ)
日本アイ・ビー・エム㈱出身。情報通信のエキスパートとして企業通信ネットワークの設計・構築・運用などの事業に関わる。2000年以降は専門分野を情報通信から情報セキュリティへ移行し、ISO審査員などを経て現在に至る。専門は情報セキュリティ、リスクマネジメントネットワーク、ITガバナンス、そしてBCP。BCPにおいては独自の「BCP-HRCモデル」を提唱している。BCP指導実績80社、BCP講演実績200回。
所属・役職
内閣官房国土強靭化推進室レジリエンスジャパン 参与/経済産業省日本情報経済社会推進協会 審査員/中小企業庁ミラサポ 専門家派遣登録専門家
連絡先
H.R.C(Holistic RISK Controls)
電話:080-3485-5737
電子メール:hrc26@moon.tnc.ne.jp

つづきは本誌2020年6月号でご購読下さい。

LINEで送る
Pocket

関連記事

Forum記事一覧はこちらから