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「棚からぼた餅」の発想を捨てる若手経営者の台頭

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先日、30代の若手経営者とお話しする機会があり、その際に話題となったのが「現代金融理論(MMT)」についての見解でした。MMTは最近、米国で広がり始めている考え方で、「自前の通貨を持つ国が自国通貨建てでいくら国債を発行しても債務不履行(デフォルト)には陥らない」というものです。そしてその好事例として、多額の国債を発行していても財政が破綻しない日本が紹介されています。

提唱者は、2020年の米国大統領選挙に出馬表明しているバーニー・サンダース上院議員の顧問を務める経済学者ステファニー・ケルトン氏や、米国史上最年少の29歳で下院議員となったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏。若者に人気のある政治家を中心に、そうした考えが広まっているといわれています。その結果、彼らを支持する若者が、こぞってこうした考えに染まっているようです。

そこでその若手経営者と、このことは事実なのか、といった議論を活発に行いました。その方の企業は最近、米国に現地会社を設立、件数は少ないものの米国で受注した仕事を日本で受託生産を行うようになり、グローバル化を急速に進めておられます。

しかし、話を進めていく中で、実態は少しばかり異なっている方向に展開していきました。すでに日本の国債発行残高は国と地方を含めると1,100兆円を超え、GDP比236%で、総人口で割ると1人あたり870万円の借金を抱えていることになります。この額は財政破綻したギリシャの180%をはるかに凌ぎ、先進国最悪となっています。ギリシャのように国債価格が暴落するような事態になって、大増税やハイパーインフレに襲われてもおかしくない状態とも考えられます。

ところが日本の場合、国債保有者の内訳をみると、国内の民間金融機関が約40%、日本銀行が46%で、海外からの借り入れは7%にも満たない。さらに日本は世界最大の対外純資産残高を保有する国で、2018年末で総額は341兆円となっています。しかも、日本の家計資産残高は1,829兆円。国の持つ1,100兆円の借金を差し引いても国全体で見れば700兆円規模の資産が残ることになります。これらはいずれも、海外債務に対して返済能力が十分あることを示しており、外国から見れば日本は信用力が高く、保有国債を売る理由は特に見当たらない、国債価格が暴落する心配はない、ということになるので、MMTの考えは参考にならないという話になりました。

共通していたのは国債を償還するために赤字国債を発行する自転車操業を繰り返す日本は、このままではいずれ資産を食いつぶして、最貧国に転落するおそれがあるのでは、という危惧でした。

その方は、安倍政権の「骨太の方針」と「成長戦略」は赤字国債発行を前提としており、いずれ近い将来に日本の財政は破綻する心配がある ― と強く指摘されていました。

製造業の30代の若手経営者が米国のトレンドを分析して、その対極にある日本のこれからを真剣に考えながら議論を戦わせていたことに「日本の若者もまんざら捨てたものではない」と気を良くしました。

2代目、3代目の事業承継者の多くは「棚からぼた餅」ではなく、自分の足腰を鍛え、自分の頭で時代の流れを分析し、商機と感じたらその流れに乗っていこう、という判断の速さとその後のスピーディーな対応力を兼ね備えて来ています。

久しぶりに楽しい議論ができましたが、それにしても最近日本の政治家の中にもMMTを紹介する人たちが現れており、不自然さと、それだけで終わってしまう危うさを感じます。

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