板金論壇

勝って兜の緒を締めよ ― マクロ経済のトレンドをウォッチする

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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IT景気が経済を盛り上げる

リーマンショックから10年が経過、世界経済は持続的な発展を続けている。なかでも、スマートフォン・半導体・データセンターなど、IT関連の需要が旺盛だ。ITサイクルを占ううえで注目されているiPhoneの出荷台数は振るわず、スマートフォン市場の不振は継続している。

しかし、市場はそれも「想定内」という見方でIT景気全体を押し下げるほどの影響はみられない。スマートフォン向け需要の弱含みにより、「スーパーサイクル」と呼ばれる世界の半導体売上高の伸びはピークアウト気味となっている。ただし、実質ベースでは底堅く推移していくようだ。

世界半導体市場統計(WSTS)が6月に発表した「2018年春季半導体市場予測」によると、2017年の半導体市場はドルベースで前年比21.6%増と2ケタ成長を遂げ、2016年の同1.1%増から大きく成長した。幅広い電子機器向けに半導体需要が旺盛で、メモリーをはじめ、多くの製品で高い成長がみられた。2018年もメモリーの高成長が継続することが見込まれるほか、多くの電子機器で需要が拡大するとみられており、半導体合計で前年比12.4%増と、2年連続の2ケタ成長になると予測している。2019年はメモリーバブルの終焉にともない、同4.4%増と、勢いは鈍化するとみられている。

景気を牽引するIT分野をはじめ、世界経済はおしなべて、さまざまな下振れリスクを乗り越えながら、ゆるやかな拡大を続けている。しかし、最近の米中貿易摩擦の拡大は世界経済にとって大きな不安材料となっている。

「貿易赤字=敗北」というゼロサムゲーム的な考えと、WTO(世界貿易機関)紛争解決制度への強い不満が融合し、さらなる保護主義へと向かうトランプ大統領が推し進める「米国第一主義」に基づく通商政策が、今年11月の中間選挙に向けた大統領の主要な政策アジェンダになってきた。

「不公正な取引慣行により貿易相手国が恩恵を受けることがないよう、必要であれば一方的措置を含むすべての利用可能な手段を使う」とし、具体的には通商法301条(一方的措置)、201条(セーフガード)、アンチダンピング・相殺関税、通商拡大法232条(安全保障条項)などの発動も厭わないとしている。

さらなる保護主義へ向かう米国

さらに、「紛争解決メカニズムの歪曲や中国などへの不公正な便益の供与がみられ、WTOが参入障壁やダンピング、補助金などを守る手段として使われており、WTOおよびどんな多国間組織も、米国民にとって必要と判断した米国政府の行動を妨げることはできない」とWTO紛争解決制度への強い不満を述べている。

とりわけ米国の貿易相手国で、赤字幅が大きい中国からの輸入品に対する課税強化を発表している。トランプ大統領は日本をはじめとして、米国との貿易不均衡がある国に対しては2国間で、課税強化を背景にFTA(自由貿易協定)交渉で、成果を挙げようとしている。

米中の貿易摩擦は報復合戦になり始めているが、「貿易額」という絶対の“天井”がある。2017年の中国から米国への輸出は約5,050億ドル、米国は最終的に、このほとんどに制裁関税をかけることも辞さない姿勢だ。逆に、米国から中国への輸出は1,300億ドル程度。このすべてに中国が課税しても、トランプ政権が現状で発動している2,500億ドルにも届かない。輸入が多い方が、制裁・報復合戦では有利ともいえる。

このように、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの撤退とNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉にとどまった就任1年目に比べると、就任2年目のトランプ大統領は強権的姿勢と「アメリカ第一主義」の傾向をよりいっそう強めている。こうした政策が中間選挙で国民からどのように判定されるか、注目しなければいけない。

つづきは本誌2018年10月号でご購読下さい。

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