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「申年は騒ぐ」の故事を活かした成長戦略

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総務省が発表した干支別の人口で、今年の干支・申(さる)年生まれの人は991万人、十二支の中では酉(とり)年の952万人に次いで2番目に少ない数とのこと。ちなみに一番多いのは丑(うし)年生まれの1,111万人で、次いで未(ひつじ)年の1,100万人となっている。

相場では「申酉(さるとり)は騒ぐ」と言われている。もともと相
場の世界では「辰巳(たつみ)天井、午(うま)尻下がり、未(ひつじ)辛抱、申(さる)酉(とり)騒ぐ、戌(いぬ)は笑い、亥(い)固まる、子(ね)は繁栄、丑(うし)はつまずき、寅(とら)千里を走り、卯(うさぎ)は跳ねる」と言われており、干支の中で人口の少ない申酉が“騒ぐ”というのも面白い。人口の多い丑年の“つまずき”、未年の“辛抱”と比べると、“騒ぐ”申年の2016年は、ポジティブな一年になる可能性も高い。

年明け早々の世界の株式市場では、中国経済の不透明感が増したことに加え、中東情勢の混迷を受け、株価は全面安となった。こうした情勢を受け、年頭記者会見で黒田東彦日銀総裁は、2016年の日本経済を「正念場の年」と位置づけ、「さらに思い切った対応をする用意がある」と述べ、一段の経済対策を行う可能性を示唆した。まさに騒がしい年明けとなった。

今年は5月26日と27日の2日間、第42回先進国首脳会議 ― 伊勢志摩サミットが開催されるのをはじめ、7月には参議院選挙が行われる。一部には伊勢志摩サミットの成果を掲げ、衆参同日選挙を行い、安倍首相が長期政権を目指すのではないか、と予測する声もある。衆参同日選挙になれば政権与党が勝利する可能性は高い。しかし、安定的な政権を持続するためには、外交面での勝利もさることながら、国民生活にかかわる景気の動向―経済対策が最も重要となる。特に今年からは、選挙権が18歳以上の国民にまで拡大された。さらには2017年4月に消費税が10%に上がるだけに、国民が安心できる社会をどのようにして構築するのかという未来予想図も重要だ。

そのためにアベノミクス「新三本の矢」を打ち出した安倍政権は、2020年までにGDPを600兆円にする目標を掲げた。一方で、人口の減少に呼応するように合計特殊出生率を1.8に回復させるとともに、「1億総活躍社会」も掲げた。それを実現するためには、GDPの6割を占める個人消費を拡大させることができるかがポイントになる。

昨年末の米国の利上げによって、これまで発展途上国に流出していた資金が米国へ還流することが予測されている。それによって新興諸国の景気が悪化し、世界経済の減速を招いてしまう。それだけに日本経済のかじ取りを誤ることはできない。

政府は昨年に引き続いて今年も春闘での大幅賃上げを経営者側に求めている。しかし、賃上げが行われたとしても、消費者の購買意欲を高めることになるのかはわからない。そこで重要になるのが、GDP比で2割を占める民間企業の設備投資。資本金10億円以上の民間企業が抱える内部留保額が昨年末で300兆円に達したと伝えられたが、こうした資金を設備投資や研究開発投資に活用させることが大切となる。民間企業の設備投資が活発化することで景気を押し上げ、経済全体を活性化することは、個人消費にも影響し、景気の好循環を実現することは間違いない。

一方、日本銀行の調査によると、日本の家計資産残高の中で金融資産総額は1,684兆円という。日本の国債発行残高が2015年度末で1,167兆円に達するといわれているが、企業・家庭で眠っている資金を活用すれば、日本経済の好循環サイクルを確立することは可能で、日本経済の発展に貢献する余地はまだまだ多い。企業や国民が積極的にお金を使える仕組みや環境を整備する成長戦略が重要となっている。

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