変化対応力に優れた企業を取り上げていく
板金業界の業況はまだら模様の様相を呈している。中でも半導体製造装置関連は、仕事を受注している板金企業の多くで2割程度の受注減が継続しており、当分は受注改善が見込めないと悲観的だ。そんな中、生成AI関連による半導体需要が引き続き好調となっている。AI向けを中心にナノメートル(100万分の1㎜)台の微細な半導体は、2022年から3㎚世代が市場に投入され、半導体メーカー各社はさらに微細な2㎚世代、1.4㎚世代の量産を目指して競争を繰り広げている。
日本のラピダスも2025年4月に2㎚世代半導体に向けた試作ラインを稼働開始し、2027年の実用化を目指している。ナノ半導体向けの高機能な製造装置、さらには半導体製造プロセスの初期段階であるフォトマスクの欠陥検査装置で高いシェアを誇る日本メーカーのサプライヤーは増産対応で忙しい。全体の8割の企業では減収減益となっているが、2割の企業では増収増益となっている。
さらに、2026年4月には「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(省エネ法)に基づき、新しい「トップランナー基準」が施行され、変圧器(トランス)の省エネ性能に対してさらにきびしい水準が求められるようになる。これにより、工場やビルなどで多くの電力を使用するキュービクル(高圧受変電設備)に内蔵される変圧器の省エネ基準が変わり、その基準をクリアすることが製造業者に義務付けられている。そのため新基準に対応した変圧器、受配電設備関連の仕事が増え、関連する板金企業では好調が続いている。
人手不足の影響もあって、活況な物流業界では自動倉庫、コンベヤーなど各種搬送装置に対する需要が拡大、こうした分野で板金を手がける企業も忙しい。
また、これまで日本では防衛予算はGDP比1%を目安としてきたが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国がそれぞれ一定の防衛努力をするために設けた、国防費のGDP比2%という基準に沿って、ここ数年は防衛力の抜本的強化を掲げ、2023~2027年度の5年間でGDP比2%を達成することを決定した。そのため、防衛関連予算が増え、装備品などに関連する板金部品を受注する板金企業では生産台数が倍増するなど、ここへきて急激に受注量が増える傾向となっている。
さらに、生成AIの活用が急拡大するなかで、さまざまなデータを活用するため、世界中でデータセンター需要が増えている。データセンターに記録保存されるデータ量が膨大となったことで、データサーバーが大型化、使用電力量・発熱量が増大している。そのため、データセンターに付帯する自家消費型発電所(太陽光・風力・バイオマスなど)を設置して、データセンターで活用する電気を再エネに切り替える動きや計画が増えている。そのため再エネ関連、ラック、キャビネット、液体冷却装置、受配電装置への需要が拡大、関連する板金の仕事が増えている。
ただ、こうした恩恵を受けている企業はまだ一握りで、板金企業間での業績の明暗が顕著になっている。それだけに経営者は、社会情勢や技術革新、価値観の変化が複雑に絡み合い、市場が急速に動くなかで、意思決定のスピードを引き上げ、変化への対応力を磨くことが不可欠だ。市場の反応を見極めながら、柔軟に戦略を修正していく姿勢が求められている。
これからも変化対応力に優れた企業を事例として誌面に取り上げていきたい。


