Interview

下請け体質から脱却した新たな「都市型ものづくり」

「Garage Sumida」設立から11年、開発・設計関係が売上の7割を占める

株式会社 浜野製作所 取締役社長 小林 亮 氏 代表取締役会長 浜野 慶一 氏

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画像:下請け体質から脱却した新たな「都市型ものづくり」小林亮氏(左)と浜野慶一氏(右)

東京都墨田区の㈱浜野製作所が2024年10月から、新体制へと切り替わった。31年間にわたって同社をけん引してきた浜野慶一氏が会長に、42歳の小林亮氏が社長に就任した。

同社は東京の大田区や墨田区など、ものづくりの集積地から中小製造業が姿を消していることに危機感を募らせ、中小製造業が直面するきびしい経営環境からの脱却を模索。自社の強みと東京の“地の利”を生かし、“ものづくりの情報の上流”からコミットすることによって「下請け体質からの脱却」「“都市型・先進ものづくり”への挑戦」に取り組んできた。

これまでの取り組みは多岐にわたるが、象徴的なのは2014年に立ち上げたものづくり支援拠点「Garage Sumida」だ。「Garage Sumida」では、2016年にはものづくりベンチャー支援事業を展開し、2017年にはリニューアルオープンして、インキュベーション施設としての機能を強化した。小林社長は、この「Garage Sumida」の運営責任者として、構想の段階から企画立ち上げ、運営までを手がけてきた。

そこで、小林社長と浜野会長に事業承継の経緯や、開設から11年が経過した「Garage Sumida」の現在、同社の今後の指針などについて話を聞いた。

チャレンジを続けるためには新陳代謝が必要

― 2024年10月から新体制になりました。

浜野慶一会長(以下、姓のみ) 会社を取り巻く環境の変化が加速する中、小さな町工場がチャレンジし続けるためには、社内の新陳代謝が必要です。新陳代謝を促す最大のポイントは社長交代であり、若い世代に経営を任せることでしょう。

小林とは、彼が大学生のときからの付き合いです。一橋大学在学中に産業・地域振興の重要性について学んでいて、国内外の中小企業を視察しており、当社にも見学に来ました。卒業後にエンタメ業界で5年ほど勤めた後、2012年に当社に入社。その後は経営管理・プロジェクト業務全般を担当してもらっています。「Garage Sumida」には構想段階から関わり、補助金・助成金の申請書の作成や社外向けコンサル業務なども行っています。

小林とはこれまで業務を通じていろんな話をして、同じ方向を目指していると感じています。「なるほどそう来たか」と感心する部分もあって、そうした若い優秀な人材に未来を託すことは楽しみでもあります。

― 米国の関税政策の影響、半導体市場の低迷など、見通しづらい状況が続いています。

小林亮社長(以下、姓のみ) 毎年年末に翌年の景気動向を予測していますが、今年は今のところ意外に予測から大きくはずれていません。株価はバブル状態がしばらく続き、いつ崩れてもおかしくない状態だったので、トランプ大統領になってから結構荒れるのではないかと思っていました。

今は、米国株は適正水準まで下がり、それにともなって日本の株価も下がってきている状態。平時より悪くなることはあるかもしれませんが、大体平時並みに落ち着くと思います。全体としては秋口ぐらいまでは先行きが見通しづらい状況が続くと見ています。

われわれのような規模の会社は、常に最悪な事態に備えておかなければなりません。中小企業は想定外の非常事態に耐えうるバッファーが限られているからこそ、余剰資金の確保や事業ポートフォリオの分散が不可欠です。それでも突発的なパンデミックや地政学的リスクの変化はほとんど予期できませんから、有事の際にも臨機応変に対応できる機動力を備えておくことが肝要です。

2024年9月期が終わるタイミングで、個人的なマイルストーンを兼ねた中期経営計画を作成しました。さまざまな状況の変化を踏まえながら随時更新していく予定です。私はまだ自社のことで手一杯な部分があります。浜野会長には今後も製造業のエバンジェリストとして、製造業界全体を見ていただき、ものづくり産業のために尽力していただきたい。

  • 画像:下請け体質から脱却した新たな「都市型ものづくり」「Garage Sumida」のコワーキングスペース
  • 画像:下請け体質から脱却した新たな「都市型ものづくり」スタートアップと職人が直接コミュニケーションをとり、開発を進めていく

開発・設計関係が前期比2倍に成長

― 「Garage Sumida」ではスタートアップ企業や大企業の新規事業立ち上げ、研究開発支援などを手がけてきました。設立から11年が経ちましたが、現在の状況はいかがですか。

小林 「Garage Sumida」は、10年が過ぎてようやく軌道に乗り始めました。2024年9月期の「Garage Sumida」関連の売上は、前期の倍ぐらいになりました。売上利益は開発・設計関係が70%、部品加工が20~30%で、残りの数%を企画・サービス分野が占めています。案件あたり数千万~1億円単位の規模の大きい仕事も入ってきています。今期(2025年9月期)がはじまってまだ半年ですが、開発・設計関係だけですでに売上は7億円を超えています。

この10年ほどでスタートアップに挑戦する人が増え、支援機関を含めた外部環境も変化しています。さまざまなメンターや先輩ベンチャーの経験を踏まえ、スタートアップの事業成長を促す環境も整備されてきたように感じます。

当然、受注する仕事の中にはわれわれだけで対応できないものもあり、地方の同業者や異業種の事業者などとも連携していく必要があります。当社から仕事をお願いしている取引先は海外も含めて延べ3,000社以上。年間を通じて取引がある企業だけでも200社ほどあります。

浜野 今までは、メーカーから同じ図面が複数社に送られ、見積り価格の一番安い会社が仕事を受けるという決定権ないステージで仕事を受けていました。地方であれば製品単価が安くても、大きな工場でマシンをフル稼働し、数量をつくることでカバーできますが、都市部では敷地面積や騒音問題などで難しい。そこで戦略的に、賃加工だけではなく、商品企画や開発・設計、事業の立ち上げ、場合によっては資金調達、コンサルティング業務も含む「ものづくりの情報の上流」から関与していく事業構造へと変革してきました。

われわれの規模だと、ものづくりに詳しい工場長のような職人はいても、事業戦略を一緒に考えてくれる人はなかなかいません。当社の場合は小林を筆頭にそうしたことを話し合えるメンバーが何人もいてくれたことが大きいと思います。

  • 画像:下請け体質から脱却した新たな「都市型ものづくり」パンチ・レーザ複合マシンLC-1212C1NTによるブランク加工
  • 画像:下請け体質から脱却した新たな「都市型ものづくり」ベンディングマシンHG-8025による曲げ加工

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会社情報

会社名
株式会社 浜野製作所
代表取締役会長
浜野 慶一
取締役社長
小林 亮
所在地
東京都墨田区八広4-39-7
電話
03-5631-9111
設立
1978年
従業員数
48名
主要事業
ロボット・各種装置・機械の設計開発、架台・筐体設計・製作、精密板金加工・レーザ加工、金属プレス金型設計・製作、金属プレス加工、切削加工・機械加工、複合加工、各種アセンブリ加工、ラピッドマニュファクチャリング(3Dプリンター・レーザカッター・CNC加工・UVプリント・3Dスキャン・3次元データ作成)
URL
https://hamano-products.co.jp/

つづきは本誌2025年6月号でご購読下さい。

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