視点

足元を見つめ、自助努力で経営を考える時

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2012年12月に発足した第2次安倍内閣は、発足して1,000日に到達した。最近では小泉内閣に迫る長期政権であり、衆参両院での与党の圧倒的多数という政権基盤が当面はゆるぎないだけに、さらに長期政権を継続する気配である。

首相は先ごろの記者会見で「強い経済をつくるために頑張る」と発言。具体的には政権発足当時から掲げてきたアベノミクスの効果―果実を、社会的弱者を含むすべての国民が享受できるようにしたい、としている。そして具体的には2020年度の名目GDPを足元より2割多い600兆円に拡大する目標を掲げた。そして、①強い経済、②子育て支援、③社会保障の「新三本の矢」を打ち出した。しかし会見では、足元の490兆円といわれる名目GDPを2割アップするという大目標を達成するための具体策に欠いていた。その一方、平成28年度予算の概算要求で、経済産業省をはじめとした各省庁は各種補助金を含め総額で100兆円を超える予算を要求。1,000兆円を超える財政赤字を抱える中で、プライマリーバランスを考えた財政健全化という課題に対して、どこまで考慮しているのかわからない。

欧州先進国や中国をはじめとした新興国と比較しても老朽化が進む日本の設備年齢(ビンテージ)を考えると、設備投資促進税制など、生産設備の「スクラップ・アンド・ビルド」を実現させるための支援制度は必要だ。その一方で、投資額の半額を補助するなどの税金の大盤振る舞いについては「経営者にとっても生産財メーカーにとっても麻薬。自助努力で行う設備投資とちがって、限界企業まで補助するということになると、円滑な自由競争を損なうことになる」と、こうした制度が恒常化することを懸念する経営者もいる。

補助金といっても一時的には資金を用意しなければならず、自己資金を用意できない、金融機関の預信が得られない限界企業などが活用できる制度ではない。「強い企業をさらに強くする。産業界の再編を加速することになり、力のある企業はこうした制度を活用して、企業の体質強化をすべき」と、アドバイスする企業診断士もいる。こうした大盤振る舞いで経済が活性化、個人所得が増え、それが個人消費の拡大に向かう経済の好循環につながれば生きたお金になるのだが、参議院選挙を目的としたバラマキに終われば、財政再建はさらに厳しいものになる。

こうした中で、意外に堅実なのが経済を支える中小企業経営者。取材に伺っても、意外にクールな反応が返ってくる。

「設備投資をする目途が明確であれば大いに活用すべきだが、経営計画もビジョンもない中で、生産財メーカーや商社、金融機関に勧められるままに設備投資をすることは避けなければならない」と答える経営者が多く見受けられる。

「身の丈にあった経営を考えるべきで、経営者が周りに躍らされてはいけない」と語る2代目経営者は「SWOT分析による自社の強み・弱みを冷静に分析して自社が進むべき道を考察し、産業界から必要とされる企業であるためには何をすべきか見抜かなければならない」「異業種企業とも連携した取り組みを考えるべき」と語っている。特にこうした傾向は都市部の企業にみられる顕著な傾向となっている。小誌でも紹介した東京都足立区と江戸川区の板金企業3社で昨年から進められている「つながる町工場PJ(プロジェクト)」などはその最たる実例だ。

今年もあと2カ月、その間にしなければいけないことは山ほどある。来るべき2016年は足元を固め、これからの進路を明確にする年にしなければならない。

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