研究室訪問

摩擦攪拌ツールの摩耗研究から新規表面合金化技術の確立を目指す

大阪大学 接合科学研究所 山本 啓 助教

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画像:摩擦攪拌ツールの摩耗研究から新規表面合金化技術の確立を目指す大阪大学 接合科学研究所の山本啓助教

摩擦攪拌加工中のツール摩耗を逆活用

大阪大学 接合科学研究所の山本啓助教は、天田財団の令和2年度「奨励研究助成(若手研究者枠)」に塑性加工分野で採択された。研究テーマは「鉄鋼材料における摩擦攪拌加工中のツール摩耗を利用した表面合金化技術の開発」。

近年、金属材料を接合する手法のひとつとして、摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)が注目されている。FSWは、高速回転させたツールと呼ばれる棒状工具を表面に押し付けることで生じる摩擦熱と塑性変形を利用した固相接合法である。軟質なアルミニウム合金の接合から始まったFSWの適応範囲は、ツールの材料特性や形状の改良によって、現在では鉄鋼材料のような高強度金属にまで拡大している。しかし、これらのFSWにおいてツールの摩耗は依然として不可避な問題であり、施工品質を維持し続けるうえで大きな障害となっている。

山本助教が着目しているのは、FSW中に鋼側に置き去りにされるツール構成元素の存在だ。現在、国内外で行われているFSWに関しての研究の多くが“摩耗しないツール”の開発に注力しているなか、摩耗の起点となるツールと鋼との間で生じる元素移動・反応に着目した研究はほとんどない。

本研究は、FSW中の摩耗現象の解明のみならず、それを利用した新たな表面合金化技術の確立を目指しており、ツール摩耗を抑制したい(ツールを消耗させたくない)FSWとは真逆の「消耗式ツール」としての展開を狙った逆転の発想が評価された。

  • 画像:摩擦攪拌ツールの摩耗研究から新規表面合金化技術の確立を目指す微小部X線回折装置を用いた鋼材表面の残留応力測定
  • 画像:摩擦攪拌ツールの摩耗研究から新規表面合金化技術の確立を目指す溶接継手への摩擦攪拌加工の様子

金属材料の溶接・接合技術に関心を持つ

山本助教は2014年3月に関西大学 化学生命工学部 化学・物質工学科を卒業後、同年4月に大阪大学大学院 工学研究科 マテリアル生産科学専攻に入学。2016年3月に博士前期課程を修了し、2019年2月に博士後期課程を修了、博士(工学)を取得した。また、博士後期課程に在学中の2017年9月には中国・上海交通大学へ3カ月間の短期留学をした。

山本助教はこれまでの経緯を次のように語っている。

「関西大学では、化学・物理・物質科学全般の基礎とともに材料工学について広く学びました。そのなかでも材料の加工 ― 特に金属材料の溶接・接合技術に関する講義は、製品をかたちづくる最終工程としてイメージしやすかっただけに、すぐに興味を持ちました。4年生の卒業研究では、当時、大阪大学 接合科学研究所にいらっしゃった小溝裕一先生、寺崎秀紀先生のご指導のもと、低炭素鋼溶接部の組織形成機構についての研究テーマに取り組む機会をいただきました」。

「その後、大阪大学の大学院へ進学してそのまま小溝研究室に所属することになったのですが、M1が終わるタイミングで小溝先生のご退職と寺崎先生の異動が重なり、所属研究室がなくなるという事態に直面しました。さいわい、M2からは縁があって現在も所属している接合科学研究所の伊藤和博先生の研究室へと移籍することとなりました。紆余曲折を経て、博士後期課程では『摩擦攪拌プロセスによる溶接部の疲労度改善に関する研究』で学位を取得しました。助教に着任してからは、これまでに得た知見を発展させ、今回助成に採択されたテーマに関連する研究に取り組んでいます」。

つづきは本誌2021年11月号でご購読下さい。

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