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中小企業の競争力強化に政府資金を投入する欧州

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モノづくりを支える中小企業が、製造業の国際競争力強化や新たな事業の創出にとって必要不可欠な存在であることは世界共通の認識となっている。

日本には、新しいモノづくりやサービス開発に挑戦する中小企業と小規模事業者を支援する「ものづくり補助金」がある。中小企業の生産設備導入などにも適用でき、中小企業のニーズに応える補助金として多くの企業に活用されている。「ものづくり補助金」は、年度ごとに新しい公募要領が発表され、その内容にのっとって公募が行われる。平成29年度の補正予算では総額1,000億円が割り当てられ、1,000万円を補助額の上限としている。

各事業者は申請書類などを作成、最寄りの地域事務局に提出する。地域事務局は、これを審査し、採択・不採択を決定する。平成29年度補正の一次公募だけでも9,518社の中小企業が、その恩恵を受けている。多くの中小企業が「ものづくり補助金」を設備投資のインセンティブとして活用しており、日本の国際競争力強化にも大いに役立っている。

こうした補助金制度は欧州 ― とりわけ日本と同様に中小企業が多いイタリアでも利用が進んでいる。

顧客にドイツ企業を多く持つイタリアの製造業にとって、2012年頃から始まったドイツ発の「Industrie 4.0」への対応は必須。その一方、イタリア国内の産業団体からは、自国におけるIoT対応への遅れが指摘されていた。

そこで、イタリア政府は2017~2019年に総額で約200億ユーロ(約2兆5,000億円)にのぼる予算を、IoTの活用を含む企業の生産性向上に資する設備更新のために計上した。その内容は、研究投資に関わる税控除、企業への助成金制度およびすべてのスタートアップ企業と産業がインターネットに接続できる環境の整備 ― などとなっている。

これによって2017年以降、イタリアでは中小企業の設備投資が活発化しており、板金業界でもIoTを絡めたファイバーレーザ加工機の導入が加速している。欧州の板金機械メーカーは、ファイバーレーザ加工機とIoT技術をセットにしたパック販売に力を入れている。大半の板金機械メーカーは、イタリアの国内販売が大きく伸びていると語っており、この制度が継続される2019年まで販売の好調が継続すると見込んでいる。

一方で、ポーランドやハンガリーといった東欧圏でも、ここ1~2年はファイバーレーザ加工機をはじめとしたハイエンドな加工設備の販売が伸びている。これらの地域では、「欧州地域開発基金」(ERDF:European Regional Development Fund)が、地域別に優先度の高いエリア・分野を定めて、とくに中小企業を対象に生産設備に対する資金提供を行っている。そのため、このERDFを活用して最新のファイバーレーザ加工機などを導入する企業が増えている。

ただ、ERDFを活用する場合は、地元銀行の与信審査が前提となるため、資金力に余裕のある優良企業に補助金が集中する傾向がある。イタリアのように、スタートアップ企業へ手厚く補助することは難しい状況のようだ。

世界的にモノづくりへの関心が高まっているなかで、自国の国際競争力に大きな影響力を持つ中小企業に注目が集まっていることは事実である。日本でも企業の自助努力を前提に、従来にも増して中小企業への助成制度の拡充を計画し、それを継続することが国際競争力強化につながると思われる。

政府にはさらなる対応策を望みたい。

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