「桃始笑」 ― 桃始めて咲く
地球温暖化の影響もあるのだろうが、年明け後の天候はめまぐるしい。春が来たかのような温暖な日があるかと思えば、3月に入っても雪が舞う冷たい日もあり、三寒四温とはいうものの、体調管理が大変です。
それよりも私が戸惑うのが毎年楽しみにしている、春を先取りして咲く花を愛でる時期の変化です。私が住んでいる一帯もここ20年で宅地開発が進み、毎年見事な花を咲かせていた木々が伐採され、一帯が造成されて宅地開発やマンション建設が進みました。ウメに始まり、春先に葉が出る前に黄色い花を咲かせるサンシュユ、そして周辺がピンクに染まるモモ。さらには庭木として植えられている住宅地のモクレン、ヒュウガミズキ、キブシ、コブシを見るのがこれまで通勤途上の楽しみでした。
今春は1月末にウメが咲き、ロウバイの香りが漂い、春が近づくのを感じていたらモモが咲き、それから紫モクレン、白モクレンを見てミツマタ、コブシの開花が間もなくと待っていたら、小春日和が続き、桜のつぼみがふくらんで、東京の開花は3月18日頃になるという新聞記事を見ました。紫と白のモクレンはとうとう見られず仕舞いでした。
そう思っていたら今度は冬への後戻り。寒さが続き、桜の開花も遅れそうです。例年のようにこの後、カイドウ、ボケ、ハナズオウなどの春の花々を見る機会があるのか心配です。
ところでモモの花を見て思うのは、「桃始笑」という言葉です。「桃始めて咲く(ももはじめてさく/ももはじめてわらう)」は、日本の季節を表す七十二候(しちじゅうにこう)の一つで、啓蟄(けいちつ)の次候で、3月10~14日頃を指し、きびしい冬を乗り越えたモモのつぼみがふっくらと膨らみ、ようやく微笑むように開き始める様子を表現しています。ステップアップの始まりという意味合いでも使われているようです。
そういう意味で私たちは四季の移ろいを、花を見ながら感じて活力にしてきたように思います。ところが、温暖化によって四季の変化が変わり、花の開花時期にも影響するようになると、私たちの活力の持ち方、マインドにも影響をもたらすようになるのではないかと心配です。
それにしても古人は四季の変化をさまざまに表現しています。太陽の日長変化、地球に届く太陽の光量に関わる暦である二十四節気があります。春夏秋冬を6つに分けることで、1年を24等分し、それぞれの季節にふさわしい名をつけています。節の訪れを一歩先んじて察知することが必要な農耕作業を行うためには、今も欠かすことのできない暦となっています。
七十二候とは、その二十四節気の各一節気(約15日)を約5日ごとに初候、二候、三候と3等分し、1年を七十二に分けたものをいいます。ウグイスが鳴き始めるという意味の「黄鶯睍睆」(こうおうけんかんす)のように、それぞれの季節時に応じた自然現象や動植物の行動を短い言葉で表現し、季節を約5日と短く区切ることで季節の移ろいを子細に示しています。
「桃始笑」と書くのは古来、花が咲くことを「笑う」と表現したからと言われています。つぼみがほころぶ様子が、人がにっこりと口を開けて笑う姿に重なることから、この字が使われているようです。
事程左様(ことほどさよう)に古人は自然との営みの中で暮らしてきたようです。それが地球温暖化によって大きく変化し始めています。そのことで生態系までもが変わっていくことにでもなれば、先々はどうなっていくのかも気になります。今年の天候の変化と花の開花時期の変化を感じて、大変気になりました。


